大阪市の「働くかたち」の近未来
~若者、シニア、女性が活躍できる都市づくりの条件は~
西岡 正次さん(A´ワーク創造館就労支援室長)
五石 敬路さん(大阪市立大学創造都市研究科 准教授)
水内 俊雄さん(大阪市立大学都市研究プラザ 教授)
レポート:けさまる
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20180317第7回配布資料一式.pdf
今回は大阪市の「働くかたち」をテーマに盛りだくさんな内容。正直なところ、ついていくのに必死でしたが、なるほど・ふむふむの連続で濃い時間を過ごせました。すごく簡単にいえば、西岡室長は「企業支援と他都市の住民(大阪経済を支える人材)を巻き込んだ就労支援の重要性」、五石准教授は「第2、第3のセーフティーネットに対応する就労支援と人的資源への投資」、水内教授は「ハウジング施策と連動した就労支援の有効性、例えば暫居と就労の一体施策など」を話していただきました。共通していたのは、「『働くかたち』をめぐって大阪市が政策的な戦略、ビジョンを持つこと」でした。

〇都市づくりと就労支援 西岡 正次(A´ワーク創造館 就労支援室長)
A´ワーク創造館で、大阪市や大阪府、府内自治体が進める就労支援の再構築を応援している西岡さん。現在の就労支援が抱えている課題を、ワーキングプア(働く貧困層)や臨時福祉給付金対象(住民税非課税)、心身の不調で就労(継続)が困難な層など、「①マッチングに偏重した従来型の雇用システムでは支援が機能しにくい層の拡大」と相談支援を利用しながら働く職員など、「②多様な人材への対応力が欠如し、人材不足と離職者の増加に手をこまねいている中小企業群」と指摘します。
かつての大阪市の『働くかたち』の魅力を取り戻し、これからを検討するうえでは、「①就労支援がマッチングのみならず、就労やキャリア形成の準備段階から定着支援の段階まで広がっていること」「②相談者のみならず、人材を受入れる企業等への支援と連携が不可欠であること」という前提を共有したうえで「就労支援ビジョンを策定することが不可欠」と明確です。特に企業支援に関わる行政活動は未熟で「働きながら学ぶ」「適職を発見する」「キャリアの見通しをつける」といった人材面から企業を支援する担当部署は見当たらないのが実情です。
では、大阪市は何から始めればよいのでしょうか?まずは、各部署でバラバラに設置している就労相談窓口の再編に踏み込むぐらいの「①各区レベルで就労支援と人材の施策ビジョンづくりの議論から始めること」。次に、立派な地域経済を抱える大阪市ならではの「②地域企業と連携した幅広い就労支援を実施できる人材開発プランと人材面から企業を応援するビジョンを打ち出すこと」。そのうえで、「③求職者へは働きながら学ぶ・適職に出会うチャンスを提供し、企業にとっては言語化されにくい業務内容や雰囲気などを理解したうえで、採用・定着の施策プロセスを推進するような“地域キャリア(職業生活支援)センター”を置くこと」を当面の目標にしようという提案でした。
また、地方分権で各区に権限移譲されることは悪い流れではないもののの、各区がバラバラに動くのではなく、大阪市という規模感や地域特性(住民や住居の特徴、受け入れる産業・企業、支援を担うNPO等)を活かせるセンターを構想するには、複数区を合わせたブロックレベルで就労支援施策の形成を促す取組み=本庁(中之島)の機能が重要になるという指摘は印象に残りました。

〇大阪市の「働くかたち」の近未来 五石 敬路(大阪市立大学創造都市研究科 准教授)
五石先生は経済学が専門ですが、全国各地の生活困窮者の現場を訪問されています。データ的な裏付けをとりながら、支援現場の声の見える化に努めている姿勢には頭が下がります。日本の「人的資本投資の低さ」が労働生産性を低下させ、平均所得を下げ、国際的な地位も低下するという悪循環を指摘。万博やオリンピックといった一発物のイベントに予算をかけるのではなく、「人材開発に予算」という方向性が好循環を生み出す可能性を示します。
また、「日本のセーフティーネットは入りにくく出にくい」ことが特徴で、経年でみると長期失業率も生活保護受給期間も上昇傾向し、第1のセーフティーネットである失業保険の受給は全失業者の2割に過ぎず、最後のセーフティーネットである生活保護は、働いても低賃金で脱却すら困難な状況があり、名ばかりの自立で困窮状態を黙認する仕組みが日本にあると厳しい意見。
この隙間を埋めると期待された生活困窮者自立支援事業も、就職を急かすHW(ハローワーク)と変わらない運営や充分な体制が確保できないなどの問題を抱え、自治体によっては空転しているそうです。国から言われたことを淡々とこなし、細切れ事業を各部署が個別に民間へ丸投げするだけではなく、このまちの将来像を描き、既存事業を含め整理し、大きな枠組み事業を再編することが、大阪市の「働くかたち」の近未来には不可欠と提案されました。特に大阪市は指摘した問題点が集中し、第2第3のセーフティーネット領域を生活困窮者自立支援だけでなく、第2の無料職業紹介、職業訓練、教育を含めた新たな公共政策領域ととらえ、義務的経費ではなく人的投資という概念で向かい合うべきという言葉は印象に残りました。

第二部に続く・・・
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