大阪の下町成長戦略を考える~空家活用を切り口に~【前半】(第10回_20180922@平野区画整理記念会館)

第10回 自治フォーラムおおさか 第1部
大阪の下町成長戦略を考える~空家活用を切り口に~
高見 一夫 氏(A´ワーク創造館館長/中小企業診断士)
葛西リサ 氏(日本学術振興会特別研究員:立教大学所属 )
伊藤 千春 氏(イトウチハル建築設計工房/itochiha 主宰)
武 直樹(自治フォーラムおおさか共同代表)

レポート:みなみ 延雄

人口が減少していくなかで、新しい福祉や教育の提案をしてもひっかっかるのは財源論。
総合区・特別区という、都市制度をとりあげて財政をテーマに議論はしてきましたが、成長戦略については、触れてきませんでした。
オフィスの集まる中央区・西区・北区という稼ぎ頭だけではなく、地場産業や地域資源を巻き込みながら「下町成長戦略」を考えるのが今回のテーマでした。
みなさんの報告を聞きながら、国の事業承継の特別融資を活用した工程分解や設備投資を行い、誰もが働ける工程へと進化させる。短時間労働でのワークシェアも可能にする。そうすれば、中小企業の後継者問題と就労支援を同じ土俵で論じることができるかも。そんな、まち工場の再興と周辺の空家活用が一体となった、就住一貫のまちづくりを夢想してしまいました。

〇官民共の協働で市民のための地域経済政策を(高見 一夫)
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高見さんは、大阪市経済の特徴を「①バブル崩壊以降、“失われた30年”の影響を強く受けている」「②市外からヒト・モノ・カネが流入しているが、中央区・北区・西区に集中している」ことを説明し、「③万博やIRを起爆剤に稼ぎ頭の産業や大企業を伸ばし、トリクルダウンに期待するだけでは、市内事業所の98%を占める中小企業や地域の経済は潤わない」と、大阪市・府が策定した「大阪の成長戦略」に疑問を投げかけます。大阪市の宝は、新世界やミナミのにぎわいや中小製造業の高い集積に代表される中小企業や商店。これらを意識的に応援しながら、地場産業と市民のくらしを守る「下町成長戦略」を議論しようと呼びかけます。
そのベースにある考え方は「漏れバケツ理論」。消費される割合が「①地域内8割・地域外2割」と「②地域内2割・地域外8割」の2ケースをとりあげ、10,000円が地域で消費され循環した場合、最終的に地域内で循環する金額は「①が50,000円」「②が12,500円」と同じ10,000円が4倍の経済効果を持つことになります。市外からヒト・モノ・カネが集まる大阪市だからこそ、地域に入ったお金を地域内で循環させる。地場産業や地域の中小企業を応援することの大切さを伝えます。そのうえで、市内の事例として「大阪靴メーカー協同組合の人材育成の取組(シューカレッジおおさか)」や「芦原橋アップ・マーケットとレザーストリート(商店街の活性化)の取組」が紹介されました。
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最後に大阪市の潜在的な失業者(ミッシングワーカーや高齢者)の存在にも触れ、働くことは「金銭だけでなく、誇りを取り戻す」ことにもあると指摘し、市民を元気にする起爆剤として、空家を活用したり、空き時間を利用したり、小さくても地域課題に取り組むコミュニティ・ビジネスやスモールビジネスを育て、地域内に月に2万円を稼げるしごとづくりを推進しようと提案されました。
高見氏当日資料.pdf

〇空家活用と社会貢献の両立を目指す -ひとり親向けシェアハウスの実践ー(葛西リサ)
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葛西さんは、持ち家>公団>公営という日本の住宅施策が「住宅は“自助努力”」という社会通念をつくりあげ、シングルマザーを苦しめているかもしれないと指摘します。これまで全国30か所以上のシェアハウスへの取材やお母ちゃん達へのヒアリングでは、住宅保障を求める声は少なく、どちらかと言えば、手当の充実や就労支援へのニーズが高いと感じていたそうです。住宅の問題は「自分の力でなんとかするもの」と感じているためかもしれません。また、賃貸住宅を借りるにも公的支援はほとんどなく保証人や収入要件の壁により、育児と就労を両立できる環境を選べない。その結果、経済だけでなく「空間と時間の貧困」に苦しむお母ちゃんたちのリアルな姿が紹介されます。
そこで注目されてきたのが、どんどん増える空き家問題とシングルマザーの住宅問題を一石二鳥に解決できる、ハード(住まい)にケア(育児サービス)をコンバイン(内包)するシングルマザー向けのシェアハウス。葛西さんが把握するその数は30軒。月15万円の家賃でも満室の世田谷のシェアハウス、人材確保の手段として広告宣伝費を転用し就労・住まい・保育のオールインワン型シェアハウスを始めた介護事業者、保育資格を有するシニアが常駐し地域サロンを併設する現代版下宿など全国の事例を紹介します。ただ、すでに取材した10軒は閉鎖されたようで、その理由に「①ひとり親向けシェアハウスは次のステップに移行するための過渡的な住まいであり、流動性が激しく入居者探しに苦労すること」「②不動産会社主導で育児の専門家や地域団体との協議不足だったこと」「③民間事業者の撤退の速さ」の3つを挙げます。
とはいえ、お母ちゃんが次のステップに進む充電時間の確保や、お母ちゃんに何かあった時に子どもが孤立無援にならないつながりづくりなど、単なる住居確保以上の価値がシェアハウスにはあるとも言います。
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これからは、空き家活用型シェアハウスのみならず、シングルマザーが活躍できるインフラとして子育て支援付き住宅を推進するためにも「住宅確保は社会保障の一環であることを認識し、モデル的にでも、シングルマザーを対象としたケア付き住宅と公的な家賃補助の導入」を提案し、報告は終わりました。
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第二部に続く・・

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