大阪の防災と都市インフラを考える(第12回_20181215@大阪経済他大学OUEL研究センター)

第12回 自治フォーラムおおさか
大阪の防災と都市インフラを考える
吉村 庄平 氏(大阪高速鉄道(株)代表取締役社長、土木学会関西支部長)
堀 真佐司 氏(大阪広域水道企業団元副理事 )

レポート:みなみ 延雄

2018年最後の自治フォーラムのテーマは「防災と都市インフラ」。大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号、改正水道法など、否が応でも耳をふさぐことのできない内容でした。
吉村氏は、これから起こりうる災害への対策は“再度災害防止(過去最大災害への対応)”では不十分。“想定外”もイメージして、ハード・ソフト両面から備えることの重要性を説明されました。堀氏は、改正水道法の議論が、あまりにも“民営化”の推進・反対に偏りすぎていて、水道経営の課題を共有し、冷静に建設的な議論をつくっていく必要性を述べられていました。
報告を聞きながら、大阪都構想の住民投票と同じような構図を感じずにはいられませんでした。“いまのまま”では持続性や新たな課題への対処が厳しくなることを漠然と感じながら、ついつい“わかりやすさ”に流されてしまい、考えることを中断してしまう。都市インフラも都市制度も長期的な視点が不可欠で、冷静な判断ができるよう、備えることの大切さを改めて考えさせられました。
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〇大阪の防災と都市インフラ –今年の自然災害を通して考える–(吉村 庄平)
・自然災害被害額17%、地震集中率20%の日本
世界に占める国土面積はわずか0.25%の日本。地震大国日本といえども、「世界の自然災害被害額の17%(4220億ドル)を占める」「世界のM6以上の地震の約20%が発生している」ことを数値で示されると改めて驚かされます。そして、気が気でないのが、今後30年間の発生確率60%、大阪府域での想定人的被害が13万人以上とされる南海トラフ巨大地震。1946年の昭和南海地震(M8.0)が発生する前に、西日本ではM6以上の内陸直下型地震が頻発していたそうです。熊本地震や大阪府北部地震と続く状況は似通っています。地震への備えが待ったなしの状況にあることがわかります。

・大阪は水害に強いのか?
台風21号の暴風被害はすさまじかったものの、高潮の浸水被害を大阪では防げたことや河川・下水道の整備が進み、ここ数年は寝屋川流域の浸水被害が大きく軽減され、水害への危機意識が薄くなりがちです。また、今回、高潮被害を防止した安治川・尻無川・木津川の3大水門は建設から48年、毛馬排水機場も37年が経過していて、現状の機能を維持しながら更新する時期が迫っています。また、地球温暖化などの影響による雨や台風の激甚化の状況を考えると、これまでにない規模の災害を想定したハード・ソフトの備えが必要で、「大阪は水害に強い」というとんでもない意識はもたないほうが賢明のようです。
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・居安思危(こあんしき) 危機管理の第1歩=イメージすること
最後に吉村氏は、「居安思危 思則有備 有備無患」という故事を紹介し、「安きに居りて危うきを思う 思えばすなわち備え有り 備えあれば患い無し」の実践を呼びかけます。南海トラフ巨大地震の人的被害想定でも避難の迅速化がすすめばハード対策と合わせて限りなくゼロに近づけることができるという想定さえあります。公助であるハードの対策だけではなく、自助・共助である「防災意識の向上と防災行動」で大阪の防災力を高めるために、“平時の防災”つまり自然災害の怖さを忘れないうちに、災害時をイメージし、個人でできる対策を実践すること。それこそが一番の防災対策とのことでした。

20181215吉村先生_大阪の防災と都市インフラ_配布版.pdf

〇水道事業における広域化・官民連携の課題 (堀 真佐司)
・今のままでは耐震対策に130年。全国平均60%の値上げ。
大阪北部地震では水道管が破裂し水が吹き出す映像が何度も流されていたことや、台風21号では停電に伴う断水が各地の団地でも起きたことから、水道はいまのままで大丈夫なのか?という声を夏ごろから耳にする機会が増えました。それに輪をかけるように、フォーラムが開かれる10日前(12/6)には水道改正法が衆議院で可決され、水道事業への注目度は上がっています。
堀氏は、大阪北部地震では大規模長期断水が回避できたことを一定評価します。ただ、将来的な水道事業のあり方は、冷静な議論が必要だと指摘します。全国で6割の水道管は耐震基準に適合しておらず、年間の更新率はわずか0.7%。すべてを更新するには130年かかる見込みです。また、地方では人口が減少し、水道の維持経費がバカになりません。いまのやり方では30年後の水道料金は、全国平均で60%、地方の小規模水道では300%の値上げが必要といった試算もあるそうです。つまり、いまのままでは水道経営が成り立たないという状況が、民営化も含めた議論の根源にはあるのです。
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・水道事業のこれから
堀氏は、民営化推進派はあまりにも、「民営化=効率化=経費削減」を標榜しすぎているとも指摘します。現在でも多くの水道事業で利用料と支出が保たれていることや地方債を発行すれば公共でも低利で資金調達が可能であり、「民間にはできて、公にできない」といった極端な主張には疑問を投げかけます。
それよりも、「①水道関係職員の減少と高齢化で技術継承が難しくなっていること。」「②人口減少と節水技術で水需要の減少が見込まれること。」この本質的な2つの課題を踏まえた議論が必要であると説明します。
民営化しようが、公営化のままであろうが、人口減少が進めば1人当たりの維持管理コストは高くなります。維持に極端な値上がりが必要な小規模水道は「福祉的水道」として公費で負担するなど、長期的な視点に立った「政治主導」の判断も求められそうです。また、民営化や民間委託を導入したとしても、行政が業務内容を精査できる「モニタリング・監査」がなければ、安かろう悪かろうサービスがまかり通り、異常なダンピングで破綻したアトランタの二の舞になりかねません。
個別課題の解決策をひとつひとつ積み重ねて、民営化反対賛成だけではなく、官民連携や広域化など、あらゆる方法で水道事業のこれからを考えるべきと提案され、報告が終わりました。
20181215_堀先生_水道事業広域化・官民連携配布版.pdf

○質疑応答
Q:北部地震では自衛隊が早く撤退したように感じるが、だれが指示をしたのか?
A:今回誰が指示したのか知りませんが、派遣時は地元の市町村首長から知事に依頼し、知事から自衛隊に要請しています。「自衛隊にもうちょっといてほしかった。」という声を被災地で聞くことがありますが、自衛隊は、最後は地域で自立できるよう、少し早い段階でその役割を地元に渡しているのかもしれません。

Q:防災設備の更新や維持管理の莫大な費用は、長期的な行政予算に織り込まれているのか?
A:どこの自治体も悩んでいる問題です。長期的な視点で、長寿命化に取り組み、総費用を抑える努力はしていますが、既存の防災機能を維持したままで新たに更新するには、コストは高くなります。

Q:官民連携が円滑に進むには、受託者=下請けの上下関係ではなく、発注者と対等な関係が不可欠だと考えるが、行政の意識改革はできるのか?
A:「市民がよかったな」と思える将来的なビジョンを官民で共有し、お互いに知恵を出すことを積み重ねるしかないのでは。

Q:モニタリング人材や監視機関はどうやれば設立できるのか?
A:人材不足は深刻で、個々の自治体が単独で設立できるものではありません。イギリスでは国が監視組織をつくった事例もあり、広域の都道府県レベルで技術と経営的視点を有する機関を設立するのは1つの案だと考えます。

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