大都市制度を考えるPart3~母都市の役割、ダイナミズム、財政問題~(20180414)

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第8回 自治フォーラムおおさか 第1部
大都市制度を考えるPart3
~母都市の役割、ダイナミズム、財政問題~
小西 禎一さん(大阪経済法科大学客員教授)
武 直樹さん(NPO法人いくの市民活動支援センター代表理事)
レポート:みなみ 延雄 

当日の配布資料はこちら↓↓
20180414第8回配布資料一式.pdf

参加者には元大阪市長の平松邦夫さん。
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2011年の大阪市長選挙では、大阪都構想を掲げた橋下さんと正面対決した記憶がよみがえります。橋下知事時代に財政再建プロジェクトチーム長、松井知事時代に副知事を歴任された小西さんが、平松さんを目の前に何を語るのか。ちょっとした緊張感のあるフォーラムのスタートでした。小西さんは冒頭で「元市長の前で話をするのは、少々気が引ける」と言いながらも、水道局の府市統合のいきさつの質問が出ても、合意できなかった部分を客観的に回答するなど、歯に衣着せぬ発言もありました。ただ、豊富な行政経験に裏打ちされた、ひとつひとつの言葉には妙に納得することが多かったように思います。

◎問われているのは「総合区か特別区か」ではなく、「大阪市をなくすかどうか」ということ
(小西禎一 大阪経済法科大学 客員教授)

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■問題設定をもう一度
まず、小西さんはマスコミ報道の立ちどころの違和感を述べます。「既存政党vs橋下維新」であった時代をそのままに、「総合区vs特別区」で取り上げることが多く、一番大切なポイントである「大阪市を残すか無くすか」が丁寧に説明されることが少ないと指摘されます。大阪都構想で実現しようとしたことは「都市内分権」「都市の自立性(財政的安定性・経済発展)」で、1つの政令市を4つの中核市に分ける特別区に「都市内分権」では軍配があがります。しかし、「都市の自立性(財政的安定性・経済発展)」を考えると様相は大きく変わるようです

■財源から考える
1つ目はまちづくりに使える財源。現在800億円程度の都市計画税・事業所税をまちづくりに使っています。これを4つの特別区と大阪府に分けて使うのが“都構想”。大都市として必要な大規模プロジェクトや機動的な投資という視点で考えれば、集中していた予算を小分けにするのは効率的でしょうか?
2つ目は、総務省の地方制度調査会答申で取り上げられた留意点。簡単に言えば「行政区を分割すればするほど、事務作業のコストは高くなる。でも、それを承知で大阪市を分割するのであれば、増えたコストを国は負担しません」ということを大阪市民は理解しているのでしょうか?
3つ目は、二重行政の考え方。同種の施設や機関が二重行政の象徴として、取り上げられていますが、その背景にはニーズがあったはず。ニーズそのものが縮小したのであれば、統合ではなく1つを廃止することのほうが効果的では?
以上のように小西さんは説明されていたと思いますが、大阪市を企業に置き換えて考えると、すっきりしました。大阪市域での大規模な投資案件で迅速な決断をいう意味では、小さく分けることはナンセンスです。また、市民=株主、市長=経営者に置き換えれば、さらなる売上が見込めないのに、コストが増加するというような提案は通りません。供給過多になったサービスや商品については、統合するよりも廃止・撤退するほうが効率的です。財源から考えると、「都市の自立性(財政的安定性・経済発展)」は大阪市を残す総合区が、いいに決まっている。なぜそれでも「特別区」にこだわるかということだけは、やっぱりわかりません。

■府市あわせ(不幸せ)?
特別区にこだわる理由としては、あくまで感情論としての大阪府・大阪市のしこりがあるかもしれません。「森之宮の大阪府成人病センター移転話があったときに、市営地下鉄検車場と一体でまちづくりの絵が書けたらもっとよかったという気持ちを府職員は抱いてしまう」と小西さんは言います。大阪府の立場で“大阪市”のことを考えると、府市が一体となっていろいろできる「特別区・都構想」は魅力的にうつるという気持ちはよくわかります。
ただ、「大阪市内のことは大阪市におまかせできた歴史があるからこそ、大阪府は周辺の衛星都市などの広域行政に集中でき、大阪府域全体が発展したという視点も大切」との意見は、広域自治体経験者ならではの意見で妙に納得しました。
ちなみに、この府・市のしこりの解決にむけて、太田知事時代にも大都市制度を考える研究会が開催され、その結論が“大阪府は大阪新都機構として広域全体でやる業務に徹し、基礎自治体にできることは政令市・市町村に任せる”という、今の特別区の発想とは異なるものであったこと。大田知事もこの結論にはなかなか賛同できなかったことは忘れてはいけないと感じました。
マスコミ報道だけではわからない、財政や行政の仕組みを知ると “大阪市をバラバラにするのは、もったいない”というのが正直な感想です。これからは、小西さんが語っていた「ワン大阪市+総合区(いまの財源で都市内分権を進める)vs特別区(バラバラ大阪市で財源を手放して都市内分権を進める)」をもっと広く伝えたい。そんな気持ちになりました。
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〇特別区設置法定協議会等の議論の経過報告(武直樹 NPO法人いくの市民活動支援センター代表理事)
武さんからは、特別区や総合区が議会などでどのように議論されているのか経過報告がありました。
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特別区は「大都市制度協議会」「大都市税財制度特別委員会」「財政総務委員会」という3つの場で議論がされていて、「住民参加やニアイズベターなどの『①住民自治』」「経済成長や職員配置、財政調整などの『②自治体経営』」が主な論点となっていることでした。
ただ、議論をするにも具体的な方策は見えにくく、住民自治については「270万人に1人の市長。270万人に4人の区長。どちらが住民の意見をくみ取れるかは明白でしょう」という説明がされたり、職員配置について「具体的で精緻な積算はできていないけど、今を基準に割り当ててイメージで試算しました」とか、経済効果についても「都構想そのものには経済効果はない。でも、都構想が実現して動き始めたら効果は出てきます」という漠然としたと4特別区案で説明が続いているようです。一方、総合区については、それほど熱意が伝わってはこないものの、大阪市を残したまま、都市内分権を進める取組なので、まだ具体性のある8区案ということでした。
とはいえ、マスコミの世論調査が示すように、大阪市民の一番人気は「いまのまま24区」なので、スケジュールありきで物事を進めるのではなく、そもそもなぜ「都構想」「総合区」が必要だったのか。原点に立ち戻る必要は強く感じました。
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