実践事例から考える 空家活用の可能性(第13回_20190928@OUEL研究センター)

第13回 自治フォーラムおおさか 実践事例から考える 空家活用の可能性
武 直樹 氏(NPO法人いくの市民活動支援センター代表理事)
 大阪市空家利活用改修補助制度
葛西 リサ 氏(立教大学 コミュニティ福祉学部RPD研究員)
 母子世帯の居住貧困と空き家活用~公民の空き家活用のグッドプラクティスを大阪でも!
吉永 規夫 氏(Office for Environment Architecture 代表)
 ヨシナガヤの実践事例から空家活用を考える

レポート:袈裟丸朝子

みなさん、お久しぶりです!!
自治フォーラムおおさかの再スタートは『実践事例から考える「空き家活用の可能性」』をテーマに、シングルマザー等のサポート付きハウジングをおいかけ全国行脚されている葛西リサさんと、シリーズ化された改修長屋「ヨシナガヤ」を手掛ける吉永規夫さんをゲストにお招きし、全国でも突出した空き家を抱える大阪市の空き家(約28万戸)の可能性について議論しました。
また、住宅セーフティネット制度が改正されて2年が経ちました。住宅の確保に困る低所得者、被災者、高齢者、障がい者、子育て世帯等の方々に改修された空き家を活用しようとする制度ですが、運用はうまくいっているのでしょうか?さっそく、第13回の様子をレポートします。

武直樹さん 補助制度を活用して空家をまちづくりの資源に!
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まずは武さんが大阪市で6月にスタートした「大阪市空家利活用改修補助制度」を紹介。空家を住宅として活用するタイプと、こども食堂や高齢者サロンなどコミュニティ再生の拠点に活用するまちづくりタイプなど2種類の改修費の助成が用意されています。住宅再生は75万円(1/2)、まちづくり活用型は300万円(1/2)ですが、これまでにあった申請は10件で、助成決定は東住吉区と旭区の1件、阿倍野区の2件です。すべて住宅再生型への応募で、地域まちづくり活用型の申請団体を探しているとのことでした。また、助成対象物件は、不動産市場に3か月流通していないという項目があるそうですが、それは顔の見える関係で知恵を出し合えばなんとかなる?そうです。

葛西リサさん 
母子世帯の居住貧困と空き家活用 ~公民の空き家活用のグッドプラクティスを大阪でも!

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「シングルマザーの住宅支援」をテーマに研究をはじめた十数年前、世間の関心は低く、大家さんにも「シングルマザーに部屋は貸さない」空気が当然のようにあったそうです。その空気が変わったのは、子どもの貧困問題が注目されだしてから。
現在、シングルマザー123万世帯でこれは諸外国と比較すると「少ない」のですが、離婚したくてもできない潜在組も多数あると推測され、離婚前の“プレシングル状態”の問題は支援策もなく深刻な課題と指摘。
また、シングルマザー向けの制度も空回りしています。公営住宅優先入居、生活支援施設、福祉資金といった三施策はあるのですが、ワンオペで子育て・家事・仕事をしているお母さんのニーズに応えることはできず、結果、都心部に仕事を求め、長時間パート、劣悪な住環境、子どもの空間貧困といった悪循環を起こしています。貧困の連鎖を断ち切るための学習支援もありますが、そもそも学習空間が家にないのです。
また、シングルマザーの世帯年間収入が増えたという統計データはあっても、多くは就業時間が伸びただけで、生活のしんどさの改善・解消にはつながっていない「数字のからくり」も紹介。だからこそ、住宅支援+就労、ケア、コミュニティといった包括的・総合的支援が必要で、まだまだ改善の余地がある分野だと改めて思いました。
ただ、シングルマザー向け住宅支援制度の事例として紹介されていた、神戸市の15,000円家賃補助制度や群馬県営住宅のシェアハウスなど、新たな住宅支援構築に向けた自治体のチャレンジもありました。空き家をたくさん抱える大阪市だからこそ、それを資源として活かした独自の取組に期待したいところです。

吉永規夫さん
ヨシナガヤの実践事例から空家活用を考える

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長屋をスタイリッシュに改修する建築士、吉永規夫さん。2014年から改修長屋をシリーズ化した「ヨシナガヤ←よし!ながや(良い長屋)」の実践をお話していただきました。1990年代には約6万戸以上あった大阪市の長屋も、2013年には1万戸をきったという統計があります。負の遺産として姿を消しつつありますが、そんな物件も路地裏コミュニティと長屋をこよなく愛する吉永さんにかかれば、誰もが住みたいと思う素敵な「ヨシナガヤ」に変身!!
生野区桃谷、林寺、平野、東住吉、西成の事例を紹介していただきましたが、狭く暗かったお風呂が富士山の見えるバスルームになったりと、某住宅改修番組ではないですが「なんということでしょう」と思わず見ほれてしまう素敵な事例に会場からも感嘆がもれていました。
吉野家にかけて「はやい・やすい・うまい 吉永家」をキャッチフレーズにされていますが、軽自動車ぐらいの値段(格安)でリノベを依頼するお客さんもあるとか。それでも、古い畳を防音壁に使ったり、オーナーにDIYのお手伝いを頼んだり、何とかカタチをつくりあげる腕は本当にすごい。なお、シリーズは現在008まで完成していますが、60歳になるころには、100を達成している予定だとか。ぜひ、一度実際の物件をみなさんもご覧ください。

グループディスカッション
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最後は参加者が各グループに分かれてディスカッション。
印象的だったのは、「長屋・空家の耐震」における吉永さんの考え。長屋は1部屋だけを工事しても耐震基準を満たせるわけでもなく、耐震対策は必要なものと分かりながらも、「安く・かっこよく」というオーナーの声に応えながら、できる範囲で最低限の耐震を施しています。その背景には、“家は使われてこそ”“100年後にも長屋を残したい”という熱い想い。放置されたままダメになり、長屋・空家が更地になるという流れに抗する建築家が大阪にはいました。11/16-17にはオープンナガヤ2019が開催されます。「ヨシナガヤ」を現地で見れる機会ですので是非。
とはいえ、葛西さんが指摘された「空家活用にも質の担保を」という発言。韓国ではシングル向けの住宅支援が始まっているのですが、市場に流通しない劣悪な物件をシングル向けに提供しているだけというケースも多いみたいです。空家をセーフティーネット住宅に活用する際には、民間だけに任せるのではなく、国が借り上げて供給するなど、質の担保が必要です。そんな動きをつくろうと、母子世帯向けシェアハウス全国会議も動き始めています。興味のある方はぜひ参加してください。

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