SDGs時代の公共調達を考える(第14回_20191109@A´ワーク創造館)

第14回 自治フォーラムおおさか SDGs時代の公共調達を考える
西岡 正次 さん 氏(A´ワーク創造館 就労支援室長)
 自治体政策としての人材・労働力問題
冨田 一幸 氏(エル・チャレンジ 代表理事)
 公共調達で社会的価値の実現へ
高木 哲次 氏(企業組合伊丹市雇用福祉事業団 代表理事)
 SDGsが進める公共調達
レポート:袈裟丸朝子


公共調達80兆円で社会政策を推進しよう
みなさん、こんにちは。
さて、自治フォーラムおおさか第14回は、全国の自治体就労支援の取り組みを応援されている西岡さん、総合評価入札など行政の福祉化の流れの中で、大阪府初の認定された障害者等職場環境整備等支援組織となったエル・チャレンジの冨田さん、そして、支援と生活困窮者の働く場をセットに伊丹市と川西市で随意契約を活用しながら地域の担い手づくりに取り組む高木さんをお招きし、『SDGs時代の公共調達』をテーマに袈裟丸が進行をさせていただきました。
この三人の話題提供は、私にとってもすごく勉強になりました。日本の公共調達市場は80兆円という規模もありながら、価格偏重入札中心でまだまだ活かしきれていないこと。そして、オリンピックや万博などのビッグイベントを控え、国も経済界もSGDsの旗振り役をひきうけている今こそ、EUや韓国の入札制度から学ぶこと、また、大阪府・伊丹市など公共調達を活用した社会政策の推進は大きなチャンスだと思いました。それでは当日の様子を報告します。
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西岡 正次 さん「自治体政策としての人材・労働力問題」
〇就職困難者ではなく求職準備者の発想で
生活困窮者自立支援事業がスタートして4年を経た今、全国の自治体でも公共調達を活用した就労支援が議論されています。その背景には、各自治体が初めて体験する就労困難者・生活困窮者への就労相談に対する戸惑いがあります。生活困窮者事業で「就労相談」位置付けられても、企業は就労困難者をイメージできず、なかなか就労にはつながらない。呼び方を「求職準備者」とすれば、求職活動の準備をしている人と企業もイメージが持てるのですが、生活の困りごとに各種制度を適用する相談や求人開拓中心の雇用施策であったり、これまでの自治体ノウハウだけでは、なかなか実績をあげられていない現状と、ニュースにもなった大きな事件もあり、ひきこもりや就職氷河期世代のしごとにまつわる市民や社会の関心も高くなっています。
〇変わりつつある日本の雇用慣行
一方で働く場である企業も、45歳希望退職制を導入したり、大卒一括採用を改めたり、終身雇用型の“就社”という発想から、ジョブ型に変わりつつあります。そのためには、公共職業訓練や外部労働市場の評価システムを構築し、流動性を高めることも必要ですが、一足飛びにそこまではいかない。そこで、まずは、自分たちの発注業務を活用した就労支援に担当部局が注目しているのだろうと思います。
〇自治体の現実とこれから
ただ、自治体の現実として、建築工事については調達ノウハウは蓄積されていても、役務や物品調達は規模も小さく担当部署にノウハウはほとんどありません。発注業務を活用した取り組みには、従来にない部門連携が求められます。また、一般市町村では契約を主管する部局がないところがほとんどで、戦略的・政策的な公共調達の導入には、広域自治体連携を視野に入れた発想を提案していきたいです。
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冨田 一幸さん「公共調達で社会的価値の実現へ」
〇改正ハートフル条例の3つのポイント
大阪府の改正ハートフル条例は、この4月から施行されました。これは、行政の福祉化を大阪の福祉化につなげていこうというもので、そのポイントは「①対象を障がい者から、障がい者等と就職困難者に広げたこと」「②総合評価入札など公契約を活用した就労支援を政策から条例化したこと」「③当事者と企業を両面で支える中間支援組織を府の認定組織としたこと」の3つです。①はユニバーサル就労に通じ、②は法定雇用率型のペナルティではなく、障がい者等の雇用を奨励する“共生雇用率”ともいえる概念として就労支援を促進するもので、③はその実現には中間支援が効果的であると大阪府も認めたものです。
行政の福祉化で進めてきた総合評価入札は、年間4000万円の費用対効果があり、応札企業の障がい者雇用率が10%以上と日本トップクラスのビルメンテナンス会社を生み出してきました。中間支援組織のモデルともいえるエル・チャレンジは、設立から20年で2000人の訓練生、840人の就職を実現してきました。これらの実績と実践を政策から恒久化したということです。
総合評価入札は2003年のスタートで、これは世界でもトップランナーでした。でも、あれよあれよという間に、EUや韓国が社会性や公共性を配慮した公共調達を推進し、大阪(日本)の公共調達への関心度は、いまや1周遅れです。2030年までの実現を目指す、SDGsの12・7では持続可能な公共調達の慣行があるので、公契約や公共調達を活用して、どんな社会を目指すのかを、しっかりと議論していきたいところです。
〇流域コミュニティーでソーシャルワーク
大都市の特性の1つに、働きづらさや生きづらさを抱えた人が行ったり来たりすることがあります。そうした人をビルメンの現場は受け入れてきました。この産業、この労働現場を“流域コミュニティ”ととらえて、地域福祉的なソーシャルワークを持ち込み、産業そのものを福祉化できないかと考えています。
行政の福祉化の影響もあり、大阪のビルメン産業で働く人の6割が障がい者と共に働いた経験を持っています。でも、その働く人々は、上がらない賃金がネックになって、長く働き続けることが難しく、非婚男性も多い職場です。ここに“就労支援”という付加価値を組み込み、キャリアの階段をつくれないか。“就労支援費込み労務単価”という提案で、働く人々が長く働ける職場にもなり、ソーシャルワークの原資にもなる。現に大阪府の総合評価物件では、人件費相当に3%の福祉推進費の上乗せがなされています。
時給1000円以上という賃金条項付きの公契約条例は最低賃金の上昇でその意義が問われていますし、公共サービス基本法は公共調達の適正化が中心で物足りない。大阪城公園は20年間のPMO制度が導入され、商業化ばかりが推進され公共や福祉の理念や概念はどこにいったのか。もう一度、公共調達を活用してどんな社会を目指すか議論が必要です。改正ハートフル条例は、後付けの福祉ではなく、公共調達のデザインに最初から福祉をいれるというモデルになりうると思います。
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高木 哲次さん「SDGsが進める公共調達」
〇シェアの発想で地域共生社会の実現を
企業組合は一緒に働く仲間の投資で成り立つ協同組合型の会社です。日本では協同組合といえば生協ですが、欧州では労働者協同組合も主流で、根底には、仕事も人材も地域でシェアをしながら、多様な市民が共存した職場をつくり、持続可能なまちをつくっていく地域共生型社会の発想があります。
兵庫県の生活困窮者の就労訓練事業所として認定を受け、伊丹市や川西市から福祉的な3号随意契約の対象として、優先発注を活用した仕事を多く受託しています。これは、全国の自治体でも広げられる伊丹モデルとして注目されています。その特徴は、就労支援のための新たな予算は不要なところです。いまある行政の仕事を、切り出してシェアしてもらう。それが、生活困窮者のしごとづくりにも、自立につながる仕組みです。
〇生活支援としごとをセットに
相談窓口では、いろんなケースをサポートしてきました。ただ、リーマンショックを契機に、変化がありました。以前はしごとさえあれば自立につながる方が多かったのですが、訓練的要素が必要な方増えてきました。そこから求職者訓練と緊急雇用をミックスした事業を展開したり、初回面談に関わるスタッフを増やしたり、試行錯誤を繰り返しています。そのなかでも効果的なのは、短時間でも構わないのですぐに働いてもらって、日払いで給与をお支払いすること。食料や衣類などの提供だけでなく、自分の力で賃金を得る効果は特に大きいです。「しごとに就けた。働ける」ということは、精神的な安定につながっています。しごとに就いてもらいながら、家計債権など長期の生活支援もできる。言い過ぎかもしれませんが、この取り組みは、生活に窮してやむを得ず犯す犯罪の抑止効果もあると思っています。
〇地域で理解を広げる
この取り組みを広げていくためには、市民の理解も大切です。そのために市営バスの中に広告を出したり、行政の回覧板に掲載してもらったり、認知度の向上に努めています。認知度が向上すれば、人材不足に悩む地域の民間企業からしごとをもらえたり、これまで役所への相談を躊躇していたひきこもりのご家族や本人からの相談につながります。かつては、行政に提案しても相手にされませんでしたが、いまでは市議の方からしごとを紹介されたり、民生委員・保護司のみなさんの共感を得られています。
これまで地域のしごとを支えてきたシルバー人材センターも65-70歳の年齢層が集まらず、契約が不調に終わることも出始めています。一方で、ひきこもり人口の推計は、115万人。石川県の人口と同じ規模と推計されています。ここに好循環を生み出し、地域の担い手として育てていけるかが、これからの自治体の大きなテーマだと思います。その時には、自治体の中で完結するのではなく、官民協働で行政を横につなぐことも大切です。
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パネルディスカッション
最後のパネルディスカッションは、参加者の質問に応える形ですすみました。参加されていた伊丹市議にも発言いただくなど、会場とパネラーでわいわい議論をしました。↓ピックアップすると、
“支援力を高めるコツ”を全国に目を向けて、常日頃から情報交換と情報収集をすること。そして、やったもん勝ちの精神で、良いと思ったことにチャレンジすること。人材育成では実際にスタッフを先駆的な取り組みの現場に派遣し学ばせること。こうした取り組みを地道に続けることが、10年後20年後の伊丹市を持続可能にする。と答えた高木さん。
“大阪市で伊丹市のような取り組みを進めるポイント”を働く場と支援力を併せ持った団体が大阪市内には少なく、求職準備段階のメニュー開発を進める必要があること。そのためには、今の大阪市の規模は大きすぎるので、複数区で連携するなどの検討が大切。SDGsは地域や自治体のゴール設定には便利だが、これまでの取り組みをしっかり総括する必要がある。と答えた西岡さん
“維新と行政の福祉化”をエル・チャレンジの取り組みは維新からは費用対効果を厳しく問われたもののの、施策を見直そうとする熱意が高かったことの裏付けで、数字や効果を市民に伝えることの大切さを改めて感じたこと。そして、都構想は反対ではあるが、大阪という大都市をワンマーケットとしてとらえて、持続可能な自治体を目指して議論を起こした都構想議論は賛成で、その論点の中心に“就労支援”がある。そして、損益がわかりにくく、安かろう悪かろうになりがちの公共調達を持続可能なものにするためには、根拠や理念を持った積算基準と答えた冨田さん。
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今後の自治フォーラムおおさか
 第14回も公共調達をテーマに、市民みなさんとさまざまな議論を深めることができたと思います。自治フォーラムおおさかは「私たちの大阪のまち、これからどうしていく?」をみなさんと考えてきましたし、引き続き開催していきますが、来年の住民投票実施がほぼ決まり、これから住民投票までは、大都市制度に視点をしぼっていく予定です。これかも、みなさんといっしょに考えるプラットフォームとして、ぜひ、ご参加をよろしくお願います。

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