どうなる学校統廃合?大阪市の条例を考える(第15回_20200215@OUEL研究センター)

第15回 自治フォーラムおおさか どうなる学校統廃合?大阪市の条例を考える
金谷 一郎 氏(大阪経済法科大学 客員教授)
武 直樹 氏(自治フォーラムおおさか 共同代表)
武田 緑 氏(教育コーディネーター)
入口 嘉憲(株式会社UDコンサルタンツ専務)

レポート:袈裟丸朝子

みなさん、こんにちは。
2020年も自治フォーラムおおさかをよろしくお願いいたします。
第15回は自治体政策研究会との共催で、『大阪市の学校統廃合条例(正式名称は大阪市立学校活性化条例!)』をテーマとした緊急勉強会。
報道でも大きく取り上げられているこの条例は、全学年で11学級以下の小規模小学校の統廃合を進めるため、市教育委員会が主導的に再編整備計画を作成するよう定めたものですが、こうした小学校の統廃合ルールを条例で定めるのは全国初。
そして、大阪市の小学校298校中84校(約3分の1!!)が対象となります。

学校統廃合は、政治の力で強引に進めるのではなく、本来、様々な角度・視点から議論されるべきであり、また、住民が単に賛成か反対に分断されてはならないと問題提起された西脇先生のコーディネートでスタートです。
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話題提供① 金谷一郎(大阪経済法科大学 客員教授)
■住民自治を進めるチャンスに転換
金谷さんからは、この条例ができた背景。そして、この条例を、住民としてどうとらえる(読み解く)べきかについて。
大阪市の学校統廃合、従来は区長が原案を検討していたが、合意形成がむずかしく、遅々として統廃合がすすまなかった。そこで、一定のルール化が必要との意見から、恒久的で責任が明確な条例が必要ではと、これが条例化への背景としてある。市のHPに条例案がアップされており、ここには統合を前提にした検討委員会をつくると書いているが、ここが問題。つまり、統廃合を議論するのではなく、統合が前提となっている。
統廃合のプロセスは、『適正規模以下→増える見込みがない→学校再編整備計画策定→教育委員会決定→公表→保護者等の意見聴取(校名・校歌や制服の検討)→統廃合実施』と、計画策定後はルールに従って進捗し、この過程に入る前に地域の声をどのように反映させるかが課題で、すべて区役所次第となる。
また、生徒数の見込みでは、入学者数・出生数だけでなく、各校下の社会減を防ぐまちづくりの視点をいれた議論が必要で、地域活動協議会の役割がますます重要になる可能性があることを指摘。そもそも地域活動協議会は、住民自治を尊重し、小規模多機能型の自治組織として設置された経過があり、当該地域唯一の準行政組織である。学校統廃合という地域の大切なテーマを、住民主体のまちづくり・住民自治を進めるチャンスに変えていこうと提案されました。
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話題提供② 武直樹(自治フォーラムおおさか 共同代表)
■プロセス軽視が生み出した現状
武さんからは、12校を4校に再編する生野区西部地域計画に関して、いま、まさに地域で起こっている現状を報告していただきました。
コミュニティソーシャルワーカーでもあった武市議ですが、地域づくりには「タスクゴール」「プロセスゴール」「リレーションシップゴール」があり、生野区での学校統廃合に関しては、このプロセスを踏んでいない、踏ませてもらっていないことが大きな問題だと指摘。区役所は、説明会やワークショップを丁寧に何度もやってきたというが、現実には、いつも通りの役所の進め方でアリバイづくり・予定調和だったと言われても否めない。そして、役所は一度決まったことを、1ミリも戻さない。
区長は教育次長兼務だが、立案能力・ファシリテーターの体制が区役所内になく、また、さまざまなパターン例示がないまま2016年に学校再編計画が策定された。今回、2022年4月に廃校(8小学校)方針が決定されたため、さらに住民が反発。これまで、容認派と反対派がそれぞれ陳情書を議会に提出するなど、地域間(校区間)、地域内で分断が起こっている。
地域に選び取ってもらうべきだった。地域住民は、自分たちで考え、選び取るプロセスを踏めば、一番いいものを選ぶ。校区にある課題、それは子どものコトだけではなく、総合的なまちづくりの課題としてとらえていくことが必要。完成されたものを単に提示された計画とプロセスを踏んだものは、たとえ結果としては同じでも、住民の捉え方が全然ちがう。住民自治のプロセスを踏めない、調整できない役所の力量のなさを条例で突破しようとするのは間違っている。

話題提供③ 武田みどり(教育コーディネーター)
■「適正規模」を疑おう
武田さんからは、「理想の風呂敷をひろげる担当」としてお話いただきました。
教育環境という観点から、そもそも学校統廃合が必要なのかどうかについて。まず、「適正規模」。ひとつの学校に12クラス以上が本当に必要なのか。武田さんによると、エビデンスとなるものが見当たらないどころか、日本のひとクラス40人も、世界的にみて多い。むしろ、教育効果としては小規模化(Small Class、Small School)が世界の潮流とのこと。
少人数のメリットは、子どもたちと丁寧なやりとりをしながら進めることができる。適切な介入もしやすい。40人を動かすにはパワー(権力という意味の力)が必要で、どうしても管理的、統制的なアプローチになりがち。少人数になれば、よりあたたかく、やわらかなクラスになるのでは。「適正基準」そのものを、鵜呑みにしない。
一方、少人数クラスのデメリットとして、「力の弱い子が固定化される」があるが、例えば、異年齢クラスでクリアできる。すべての学校で実施できるものではないが、武田さんは検討の価値あり、と。この異年齢グループをクラスにするイエナプラン教育を取り入れる自治体も出てきているそうだ。
また、経済効率を高めたいなら学校の複合施設化も一案。学校と公民館の連携など社会教育に力をいれ、デイサービスセンター、市民図書館、生涯学習、保育園、民間の飲食店など、「学校をごちゃまぜのラーニングセンター化」できればおもしろい。そして、学校本来の目的は自由の相互承認なのだから、子どもが減っている状況をテコに、学びの転換の機会にもできると視野をひろげる大切さを呼びかけます。
最後に、統廃合を実施するなら、経済効率はもちろん大事だけれど、コミュニティを崩さないかたちでできるのかどうか、追求するべき。異なる意見・思いを引き出して、どこが違うか、どこが共有できるのかを整理し、民主的に議論をすすめていく、ファシリテートの力が区役所に必要で、条例はむしろそれを阻害するのではと結びました。

話題提供④ 入口嘉憲(株式会社 UDコンサルタンツ専務)
■住民の財産という視点を
入口さんからは、建築と都市計画に関わってきた視点から。
千里ニュータウンの開発は、1950年代に近隣住区論(米社会教育運動家“クラレンス・ペリー”が提唱)を参考に計画された。小学校は住区から300m以内の通学圏に配置されている。しかし時の経過とともに、社宅など売却しやすい土地がマンション化し、教室不足地域と高齢化地域の格差が進行している。
西宮市は、震災復興の過程で、指導要綱を作り、人口急増の校区を公表。児童生徒が受け入れ困難な地域を規制し、開発にブレーキをかけた。大阪府内でも箕面市は、人口密度規制、戸建て住宅重視の都市計画を実施している。また、ユニークな学校の跡地利用の実例も紹介。学校の統廃合を子どもの多い少ないだけで議論するのではなく、都市計画と連動させることの大切さを指摘。
最後に、学校は住民の財産(行政財産ではない)。この部分を担う、官民の翻訳家として専門家育成が重要との指摘をいただきました。
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質疑応答
Q:統廃合の案をすべてだした上で議論すべきとのことですが、学校の複合化の議論はなかったのか?
A:過去の統廃合のケースでは、検討段階で複合化も議論はされた。ただ、池田小学校事件以降、保護者を中心に子どもの安全を守る意識の高まりがあり、不特定多数の住民の利用については、不法侵入者対策などの課題解決が難しく、条件整備は容易でない。

Q:条例は、主語がすべて教育委員会。区役所の関わりは?
A:区長が、区担当教育次長を兼務している。教育委員会の役職なので教育委員会と条例では規定しているが、必然的に区役所がかかわることとなる。

Q:4特別区に分割された時の危惧は?
A:特別区になってから、新しい区長、新しい教育委員会で議論されるのだろうが、現在の大阪市の基本方針、跡地は売却で、それが踏襲されるだろう。それよりも、分割されると各区で学校の統廃合に関われる専門職は減るので、プロセスがもっと雑になると危惧される。

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