斎藤 幸平 氏(大阪市立大学大学院経済学研究科 准教授)
レポート:袈裟丸朝子
当日の配布資料はこちら。
■時代は大分岐当日の配布資料はこちら。
みなさん、お久しぶりです。
予定の3月から延期となっていた大阪市立大学経済学研究科 准教授 斎藤幸平先生をお招きした「これからの社会運動を考える〜未来への大分岐〜」を7月18日に開催しました。
今回も自治体政策研究会との共催。
三密を避けるため会場人数を絞り、自治フォーラムおおさか初となるウェブ配信併用となりました。はからずも、ウイズコロナを模索するいまだからこそ必要な問題提起を受けたと思います。
フォーラム会場への移動中に、武さんと「突然ぽっかり時間ができたことで、これまでの働き方や家族と過ごす時間、いろいろ生き方を振り返る機会になった」そんな会話をしていました。
新型コロナウィルス感染拡大・パンデミック前であったなら、斎藤先生の講演が少し突飛に感じたかもしれませんが、まさに時代は大分岐にある。それがすとんと落ちました。それでは、以下、レポートです。

■コロナ禍が浮き彫りにした現実
西脇さんの進行で武さんが「社会運動・市民運動をどう進めていくのか、そのヒントをみなさんとつかみたい」と挨拶し、自治フォーラムがスタート。
斎藤先生からは冒頭、私の話は「そもそも論です」とありました。なぜ、いま、「そもそも論」なのか。私たちは、気候変動に代表される環境危機と資源の枯渇、そしてこれ以上の経済成長はない時代を生きている。こうした危機的な状況でありながら、リベラルの唱える「平等」は人々に響かず、運動は衰退してきた。今回のコロナ禍は社会の脆弱性をつきつけ、「これまでとなにも変わらなければ、とんでもない社会を迎える」「私たちの社会は、これで本当にいいのか?」ということをゼロベースで考えさせる機会になった。社会や生活を維持するために不可欠な医療や介護、物流などのエッセンシャルワークの重要性とそこで働く人々の低賃金・長時間労働をクローズアップさせた。経済のストップボタンが強制的に押されたことで、これまでの延長線上にはないアップデートが必要だという認識もひろがった。新しい社会運動、新しい政治、新しいシステムを生み出す最後のチャンスかもしれないと訴えました。

■将来を前借する社会システム
続いて、「新自由主義はどうも違う」と気づき始めた人々や若い世代が各国で「社会主義」という言葉を使って、資本主義とは異なるシステムを模索していることを紹介。たとえば、アメリカのサンダース、イギリスのコービンといった「社会主義者」を自称する政治家に集まる若者からの支持。投票結果からも20、30代からの支持が高いことがはっきりと出ている。また、この世代は社会主義という言葉から「ソ連」を想起しない。資本主義に変わるものとしてのエコ社会主義。30年後も生きていかなければならない若者は、地球の持続可能性と社会主義をつなげた。日本ではまだ少数派だが、欧米では資本主義は永続しないシステムと捉えられはじめている。資本主義は森林火災や海面上昇、大洪水・大干ばつ、バッタの異常発生という深刻な気候変動に対応できていない。2100年までに産業革命以降の世界の平均気温の上昇を「1.5℃」にしようとするパリ協定であっても、気候変動を抑制するには不十分だ。
国連でスピーチをした弱冠16歳の少女グレタ・トゥーンベリは、「無限の経済成長」とは資源の食い潰しでしかなく、これは将来の前借りであって、経済成長を前提としない社会をつくるしかないということを主張する。もはや資本主義では解決できないのあるから、自然と調和する社会への変革といった対応を訴えている。いまだに火力発電所を建設しようとしている日本とは雲泥の差だ。
■21世紀の社会主義
今の生活様式は続かないということに抵抗を感じる人もいるかもしれない。たとえば、いまコンビニでもワインが購入でき、毎日飲める、そういう生活ができなくなるかもしれない。でも、このままでは、ワインすら育たたない、そんな近未来に突き進んでいいのか。地球にものすごい負荷をかけて、今の贅沢な生活様式がある。これまで人類が使用した化石燃料の半分は、直近30年で使っている。奪っているものが見えにくいけれど、このままの大量生産・大量消費社会は必ず破綻する。それが、次の世代の怒りだ。
いまの生活レベルを保てなくなることに不満かもしれないが、視点を変えれば、持続できない暮らしから脱却し、より豊かな暮らしへのアップデートのチャンスかもしれない。幸せにならないことのために、お金・時間をつかっていないか。本当に大切なものを取り返すチャンスかも。それが、消費主義と決別するという意味をこめての「社会主義」であり、資本主義に代わる「21世紀の社会主義」をつくることにつながる。
今回のコロナ禍も環境破壊がもたらしたともいえる。環境破壊がこれまで人類と接点のなかったウイルスを覚醒させたともいえる。パンデミックは起こるべくして起こった。経済か命かの二項対立ではなく、気候変動のヤバさを人々が認識し、いま、ここで変わることができるかどうかの分岐点。つまり、食料危機、環境破壊、パンデミック、これらはすべてつながっている。そして、煽りをくうのは途上国といった「弱い人たち」。こんな社会でいいのか?公平さとは?正義とは?少なくない人が気づきはじめた。今のままでは、地球がもたない。
■既存システムの矛盾を直視する
市民の意識が変われば、政策も変わる。逆にそういう声がなければ政治家が「環境」を公約に入れることはない。ただ、大企業から献金をうけている政治家は、企業に不利益となる抜本的な気候変動対策はむずかしく、これは議会民主制の欠陥でもある。
荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、クジで選ばれた市民が気候に関する政策を考える市民議会というものがある。実際にフランスでは市民議会が開催され、飛行機の使用を抑制するために「国内線の廃止」や道路の「最高速度110km」、「富裕層への気候税」導入など非常にラディカルな意見が出た。これはひとつの希望かもしれない。また、社会連帯経済の中心であるスペインのバルセロナ市では、市民がワークショップを積み重ね、気候非常事態宣言を出すなど、消費主義からの決別を打ち出す地方都市も現れた。
日本では、まだまだ過激な話に聞こえるかもしれない。資本主義の利潤追求に飲み込まれ続ける限り、いまのままの暮らしを前提にしたグリーンニューディールは気候変動に対して、骨抜き政策だ。政治家やリーダーといった誰かがやってくれると思考停止に陥るのでもなく、働き過ぎ、消費しすぎの生活スタイルを見直し、社会運動のレベルあげていく。新しい闘争は世界各地で始まっている。既存システムの矛盾を直視することでしか解決できない大分岐の時代だからこそ諦めずに連帯し、一緒に頑張っていきましょうと締めくくりました。

質疑応答
Q:社会運動に若者が参画したり、市民意識を醸成するにはどうすればいいか?
A:若者が自民党を支持している現状。未来は自分に直結することだが、関心がない。そもそも新聞・ニュースにふれない学生。義務教育の段階でデモが権利だとは学ばず、自分の意見を表明する機会もほとんどなかったり、市民社会の発展に必要なことを学んでいない。日本の教育システムは、支配層にとって都合のいい「臣民教育」といっていい。ただ、これまでの左翼的な社会運動に若者が参加するとは思えない。若者の参加が乏しいという困難は共有できるが、参加をうながすような、答えは持ち合わせていない。
ただ、気候変動から目をそらすことはできても、いずれ目をむけざるを得なくなる。気候は悪くなるしかない。間に合う、間に合わないはあるが、香港の雨傘運動のように、自らが当事者として危機に直面した時、日本の若者も動くのでは。
西脇先生のまとめ
環境破壊・温暖化、新自由主義による格差拡大とパンデミックはセットであること。
欧米でのエコソーシャリズムの台頭とそれを支持するミレニアム世代。これは、自民党に投票する日本の若者とちがう。政治においてリーダー待望論は強いが、そうではなく、運動の積み重ねによってバーニーサンダースが注目された、このことは非常に重要で、これは日本のおいても同じである。
日本での市民活動、社会運動が問われており、斎藤先生から人を尊重した水平な運動のヒントをいかしていきたい。
予定の3月から延期となっていた大阪市立大学経済学研究科 准教授 斎藤幸平先生をお招きした「これからの社会運動を考える〜未来への大分岐〜」を7月18日に開催しました。
今回も自治体政策研究会との共催。
三密を避けるため会場人数を絞り、自治フォーラムおおさか初となるウェブ配信併用となりました。はからずも、ウイズコロナを模索するいまだからこそ必要な問題提起を受けたと思います。
フォーラム会場への移動中に、武さんと「突然ぽっかり時間ができたことで、これまでの働き方や家族と過ごす時間、いろいろ生き方を振り返る機会になった」そんな会話をしていました。
新型コロナウィルス感染拡大・パンデミック前であったなら、斎藤先生の講演が少し突飛に感じたかもしれませんが、まさに時代は大分岐にある。それがすとんと落ちました。それでは、以下、レポートです。

■コロナ禍が浮き彫りにした現実
西脇さんの進行で武さんが「社会運動・市民運動をどう進めていくのか、そのヒントをみなさんとつかみたい」と挨拶し、自治フォーラムがスタート。
斎藤先生からは冒頭、私の話は「そもそも論です」とありました。なぜ、いま、「そもそも論」なのか。私たちは、気候変動に代表される環境危機と資源の枯渇、そしてこれ以上の経済成長はない時代を生きている。こうした危機的な状況でありながら、リベラルの唱える「平等」は人々に響かず、運動は衰退してきた。今回のコロナ禍は社会の脆弱性をつきつけ、「これまでとなにも変わらなければ、とんでもない社会を迎える」「私たちの社会は、これで本当にいいのか?」ということをゼロベースで考えさせる機会になった。社会や生活を維持するために不可欠な医療や介護、物流などのエッセンシャルワークの重要性とそこで働く人々の低賃金・長時間労働をクローズアップさせた。経済のストップボタンが強制的に押されたことで、これまでの延長線上にはないアップデートが必要だという認識もひろがった。新しい社会運動、新しい政治、新しいシステムを生み出す最後のチャンスかもしれないと訴えました。

■将来を前借する社会システム
続いて、「新自由主義はどうも違う」と気づき始めた人々や若い世代が各国で「社会主義」という言葉を使って、資本主義とは異なるシステムを模索していることを紹介。たとえば、アメリカのサンダース、イギリスのコービンといった「社会主義者」を自称する政治家に集まる若者からの支持。投票結果からも20、30代からの支持が高いことがはっきりと出ている。また、この世代は社会主義という言葉から「ソ連」を想起しない。資本主義に変わるものとしてのエコ社会主義。30年後も生きていかなければならない若者は、地球の持続可能性と社会主義をつなげた。日本ではまだ少数派だが、欧米では資本主義は永続しないシステムと捉えられはじめている。資本主義は森林火災や海面上昇、大洪水・大干ばつ、バッタの異常発生という深刻な気候変動に対応できていない。2100年までに産業革命以降の世界の平均気温の上昇を「1.5℃」にしようとするパリ協定であっても、気候変動を抑制するには不十分だ。
国連でスピーチをした弱冠16歳の少女グレタ・トゥーンベリは、「無限の経済成長」とは資源の食い潰しでしかなく、これは将来の前借りであって、経済成長を前提としない社会をつくるしかないということを主張する。もはや資本主義では解決できないのあるから、自然と調和する社会への変革といった対応を訴えている。いまだに火力発電所を建設しようとしている日本とは雲泥の差だ。
■21世紀の社会主義
今の生活様式は続かないということに抵抗を感じる人もいるかもしれない。たとえば、いまコンビニでもワインが購入でき、毎日飲める、そういう生活ができなくなるかもしれない。でも、このままでは、ワインすら育たたない、そんな近未来に突き進んでいいのか。地球にものすごい負荷をかけて、今の贅沢な生活様式がある。これまで人類が使用した化石燃料の半分は、直近30年で使っている。奪っているものが見えにくいけれど、このままの大量生産・大量消費社会は必ず破綻する。それが、次の世代の怒りだ。
いまの生活レベルを保てなくなることに不満かもしれないが、視点を変えれば、持続できない暮らしから脱却し、より豊かな暮らしへのアップデートのチャンスかもしれない。幸せにならないことのために、お金・時間をつかっていないか。本当に大切なものを取り返すチャンスかも。それが、消費主義と決別するという意味をこめての「社会主義」であり、資本主義に代わる「21世紀の社会主義」をつくることにつながる。
今回のコロナ禍も環境破壊がもたらしたともいえる。環境破壊がこれまで人類と接点のなかったウイルスを覚醒させたともいえる。パンデミックは起こるべくして起こった。経済か命かの二項対立ではなく、気候変動のヤバさを人々が認識し、いま、ここで変わることができるかどうかの分岐点。つまり、食料危機、環境破壊、パンデミック、これらはすべてつながっている。そして、煽りをくうのは途上国といった「弱い人たち」。こんな社会でいいのか?公平さとは?正義とは?少なくない人が気づきはじめた。今のままでは、地球がもたない。
■既存システムの矛盾を直視する
市民の意識が変われば、政策も変わる。逆にそういう声がなければ政治家が「環境」を公約に入れることはない。ただ、大企業から献金をうけている政治家は、企業に不利益となる抜本的な気候変動対策はむずかしく、これは議会民主制の欠陥でもある。
荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、クジで選ばれた市民が気候に関する政策を考える市民議会というものがある。実際にフランスでは市民議会が開催され、飛行機の使用を抑制するために「国内線の廃止」や道路の「最高速度110km」、「富裕層への気候税」導入など非常にラディカルな意見が出た。これはひとつの希望かもしれない。また、社会連帯経済の中心であるスペインのバルセロナ市では、市民がワークショップを積み重ね、気候非常事態宣言を出すなど、消費主義からの決別を打ち出す地方都市も現れた。
日本では、まだまだ過激な話に聞こえるかもしれない。資本主義の利潤追求に飲み込まれ続ける限り、いまのままの暮らしを前提にしたグリーンニューディールは気候変動に対して、骨抜き政策だ。政治家やリーダーといった誰かがやってくれると思考停止に陥るのでもなく、働き過ぎ、消費しすぎの生活スタイルを見直し、社会運動のレベルあげていく。新しい闘争は世界各地で始まっている。既存システムの矛盾を直視することでしか解決できない大分岐の時代だからこそ諦めずに連帯し、一緒に頑張っていきましょうと締めくくりました。

質疑応答
Q:社会運動に若者が参画したり、市民意識を醸成するにはどうすればいいか?
A:若者が自民党を支持している現状。未来は自分に直結することだが、関心がない。そもそも新聞・ニュースにふれない学生。義務教育の段階でデモが権利だとは学ばず、自分の意見を表明する機会もほとんどなかったり、市民社会の発展に必要なことを学んでいない。日本の教育システムは、支配層にとって都合のいい「臣民教育」といっていい。ただ、これまでの左翼的な社会運動に若者が参加するとは思えない。若者の参加が乏しいという困難は共有できるが、参加をうながすような、答えは持ち合わせていない。
ただ、気候変動から目をそらすことはできても、いずれ目をむけざるを得なくなる。気候は悪くなるしかない。間に合う、間に合わないはあるが、香港の雨傘運動のように、自らが当事者として危機に直面した時、日本の若者も動くのでは。
西脇先生のまとめ
環境破壊・温暖化、新自由主義による格差拡大とパンデミックはセットであること。
欧米でのエコソーシャリズムの台頭とそれを支持するミレニアム世代。これは、自民党に投票する日本の若者とちがう。政治においてリーダー待望論は強いが、そうではなく、運動の積み重ねによってバーニーサンダースが注目された、このことは非常に重要で、これは日本のおいても同じである。
日本での市民活動、社会運動が問われており、斎藤先生から人を尊重した水平な運動のヒントをいかしていきたい。

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