大阪市議会臨時会所感(8/18~9/3) 

自治フォーラムおおさか
大阪市議会臨時会(8/18~9/3)所感

レポート:西脇くにお

〇議会前夜―8月7日共産、市民第一が統一会派を結成する
いわゆる「都構想」への住民投票の可否を決議する、大阪市会が8月18日から9月3日で開催された。
当初、武さんが所属する「市民とつながる・くらしが第一(市民第一)会派」は2議席で代表質問の権利はなかった。市議会の運営委員会設置要項で4人以下の会派には代表質問を認めていないためだ。大阪市を無くすかどうかを問う住民投票の可否を決める大切な議会で、少数会派にも質問の機会を与えるように議長に要望はしたものの、実現しなかった。それは、4議席の共産党会派も同様だった。「大阪市はなくしてはいけない、こんな時に住民投票なんか許せない」という1点で両会派は8/7に統一会派を結成し、代表質問の機会を得た。
市議会の構成は、83人のうち住民投票賛成会派は維新40と公明18で58議席、反対会派は自民19、共産4、市民第一2の25議席で、議会では賛成が圧倒的多数だ。しかし6月末の日経新聞世論調査で、都構想賛成派49%、反対派35%だったように、市民の中ではそこまでの大差はない。大阪市議会に市民の声を届けるための思い切った判断だった。
今回は武さんを中心とした議会の様子をレポートしたい。
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〇代表質疑(8月24日)「市民の命を守るコロナ対策に全力を」
8月24日は共産・市民第一会派の幹事長 山中議員が代表質問をおこなった。詳細は議会録画配信でご確認いただけるので、そちらに譲るとして、質疑のポイントは、以下の5つだった。
①累計感染者の半数以上は大阪市内が占めているこの時期に、大阪市の弱体化、後戻りできない住民投票をやるべきではない。
②12万人の未就学児に5万円を配れるのも大阪市の力。休業要請や時間短縮とその補償、PCR検査や保健所の機能の拡充が求められている。住民投票10億円や大阪市をつぶす700億円(15年間)のコストはコロナ対策に使うべき
③コロナの影響で、前回の住民投票では39回開催した説明会が8回に目減りし、十分な説明会も開催できない。住民投票が究極の民主主義であるならば、市民が知り、考え、投票に行くことが困難な環境ではやってはいけない。
④財政シミュレーションもできていない。コロナで4-6月期が赤字に転落した大阪メトロの民営化効果額1,047憶円を追加計上したままの過大な数字が出されている。特別区になっても令和7年で53億円それ以降毎年71億円も増収で試算されている。
⑤東京の特別区は戦時下に導入され、戦後、都からの財源や権限移譲を求め、やっと現在の自治権を獲得できた。それでも、自治権は十分でなく、現在も一般市になりたい意向を持つ特別区がある。時代に逆行することをすべきではない。

一方で、松井市長の答弁は、
①コロナ対策に全力で取り組みながら、市長選時の公約である住民投票は重要な民主主義の行事で、不要不急でゆずれない。
②府市一体でコロナ対策、成長戦略に取り組んだことで大きな効果を挙げてきた。バーチャルでできている今の状況を、二度とバラバラにしないために住民投票は必要。それはコストではなく大阪の成長を支える投資。
③いろんな手法で市民には説明をしていて、不十分になることはない。
④特別区だろうが大阪市のままであろうが、コロナの影響は独自財源にダメージを与える。今回の財政シミュレーションは長期的なもので信頼に足るもの。
⑤東京の特別区が財源・権限移譲を求めていることはわかっているが、その点も踏まえ東京以上の特別区制度をつくっている。
というもので、お互いの主張は平行線のままだった。
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〇財政総務委員会(8月26日)「特別区ではなく一部事務組合で介護保険を運営することは住民自治の侵害だ」
8月26日の財政総務委員会で武さんが「一部事務組合」と「介護保険」をとりあげた。一部事務組合という言葉はなじみがないかもしれないが、簡単に言えば、1つの自治体だけでやるよりも、複数の自治体が連携して事業を行うことで、効率化を図ろうとするものだ。
現在もゴミ処理や、広域に影響する川の水防事業などの一部事務組合に大阪市も参加している。一部事務組合が効果的な面もあるが、複数の自治体で協議をして、合意しながら決めていくしくみで、各自治体の想いだけでは決めることはできない。だからこそ、ニアイズベターで住民自治を大切にしたいサービスや分野では一部事務組合ではなく、自前の自治体で実施されることが多い。そのことを踏まえたうえで、武さんは住民投票で賛否を問う「特別区設置協定書」で描かれる、一部事務組合と介護保険の問題点をとりあげた。
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武議員【Q1】:この協定書は、広域の一元化にとても重きが置かれていて基礎自治が重要視されていません。5つ目の地方公共団体をつくることになる一部事務組合の設置問題についてお聞きします。
まず、一般的な一部事務組合の設立手続と今回の協定書における一部事務組合の設立手続との違いはどのようになっているのかお答えください

A:あらかじめ大阪市において一部事務組合の規約の案を検討しておき、それを基に特別区の設置の日の当日において、特別区の職務執行者である元大阪市長の専決処分を経て、法定上の協議により一部事務組合の規約を定め、知事の許可を得るという一連の手続きを、同日付けで行います。なお、特別区議会の議員選出後、各特別区議会へ報告することとなります。


武議員【Q2】:「特に特別区設置時に専決処分という形をとってまで一部事務組合を設置することが法律の趣旨から考えて自然な考え方なのかどうか、こういうことを文書で総務省に確認すべきである。」指摘してくれています。
その後どうなったのか?総務省に確認したのか?文書での回答又は何らかの回答はあったか、どのような回答であったかお答えください。

A:令和元年5月8日に総務省へ文書照会を行っており、次の2点を確認いたしました。
一つ目は、「一部事務組合設置の判断の主体」について、特別区設立当初から一部事務組合を設立するか否かについては、特別区設置の制度設計を行った自治体、すなわち元大阪市長が判断することの適否。
二つ目は、「具体的な手続き」について、先ほど申し上げた特別区設置の日の当日において一連の設立手続きを行うことの適否でございます。
その照会に対して、令和元年6月12日に総務省から特段問題が無い」旨、電話での回答を得てございます。


武議員:新しく選ばれる首長。区議会を軽視していると考えます。民意無視やし、自治権侵害だと考えます。
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武議員【Q3】:介護保険事業は、これからますます、超高齢社会を迎えていくにあたり、自治体自らが創意工夫をし、住民の皆さんとともに創りあげていくことができる基礎自治事務の中核、かなめの事業です。ニアイズベターが求められる最たるものです。今回の協定書では、なぜ、東京の特別区のように、特別区で実施するのではなくて、一部事務組合で行うのでしょうか?

A:介護保険事業については、基礎自治体の事務でございますが、特別区間の保険料のばらつき等を生じさせないことから、各特別区で構成する一部事務組合により実施することとしています。


武議員【Q4】:そこでお聞きします、保険料のばらつきを生じさせないために、一部事務組合で介護保険事業を実施するということは、大きすぎると言われている大阪市が保険者であるいまと何が違うのでしょうか?また、介護保険事業を一部事務組合で実施すると、現在の大阪市よりも介護サービスは向上するのでしょうか?

A:一部事務組合が策定する「介護保険事業計画」は、特別区ごとで策定する「高齢者保健福祉計画」と、法律上、一体のものとして作成しますことから、計画策定の段階から「介護保険事業計画」に4つの特別区の意見を反映でき、区の実情に沿ったサービスの提供ができるものと考えております。

武議員:これがこれから一部事務組合になると思うと僕はぞっとしますよ。
例えば、介護保険を利用するために要介護認定調査をうけますが、法律上は30日以内に認定結果を出さなくてはなりませんが大阪市では50日以上かかっていました。
今は、大阪市の福祉局や大阪市議会に市民は直接改善を求められますが実際に求めて改善されています。これからこうした改善を市民は、どうやって求めるのでしょうか?首長は、求められても自分の自治体には、介護保険の部署がありません。一部事務組合は、別の地方公共団体です。一部事務組合には、市民の声が届かないことが僕は目に浮かびますよ市長。


武議員【Q5】:介護保険事業は、本来、各自治体の高齢者施策などと一体となって実施されるべきものです。
都構想の目的の一つは、大阪市が大きすぎて地域の実情を反映出来ないから、4つの特別区に分割し、選挙で選ばれた特別区長、区議会のもと、特別区ごとに地域の実情や住民ニーズに沿ったサービスを実現するというものです。
介護保険事業を一部事務組合の事務とするということは、各特別区の自由を制限することにもなり、介護保険事業については、いわゆるニアイズベターは、実現できないと考えますが?市長の答弁を求めます。

松井市長【A】:特別区を設置する場合の介護保険事業にかかる事務の分担については、特別区で行う考え方と一部事務組合で行う考え方の二つをもとに、法定協議会において議論された結果、特別区間の介護料の保険料のばらつきを生じさせない、公平性をより重視する観点から、一部事務組合で実施することとなりました。
一部事務組合が行う介護保険事業は、「介護の保険事業計画」にそれぞれの特別区の意見が反映されるものであるから、地域の実情や住民のニーズに対応したサービスを提供でき、ニアイズベターを実現できるものと思います。
武議員の地元の人たちの意見、この意見と、また違うエリアの意見とではすごく変わっています、変わります。その中で一人ですべての意見を聞くことは出来ません。これから高齢化社会になるから余計です。そのときに4人首長が居て、一部事務組合の事務を、直接選挙で選ばれる首長が4人で協議する方が、今よりは住民の介護保険に加入されている方の意見はくみ取れるニアイズベターを実現できると僕はそう思います。

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武議員:4つの特別区それぞれでやりたいことは、どうやって実現するんでしょうか?4人の特別区長の誰の意見を優先するんですか?松井市長がそこにいたら松井市長が優先になるんですか?
介護保険については2重行政どころか5重行政、4人の特別区と一部事務組合で5重行政になります。
介護保険事業に関しては、特別区ごとで、市民のニーズに基づいた事業が実施できません。介護保険事業に関しては特別区ごとで、創意工夫はできないことになります。
つまり、介護保険事業に関しては、ニアイズベターはできません。しかも、この状態は、特別区は、自ら選び取って一部事務組合に入ったのではなくて、特別区ができる前から法の趣旨に反して決められ、そして特別区ができた後は、抜けたくても抜けられない。特別区の自治権侵害です。未来永劫、介護保険事業ではニアイズベターを実現できなくなります。
住民投票を実施するにあたっては、介護保険事業は特別区でなく、一部事務組合が行うこと、介護保険事業に関してはニアイズベターは、実現できないこと。市民の皆さんに誤解がないように正確につたえていただくことを要望しておきます。

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これらの質疑は、協定書が「広域の一元化とニアイズベター」をうたいながらも、ニアイズベター=住民自治がないがしろにしているという、住民自治を大切にしてきた武さんらしいものだった。

〇建設港湾委員会(8月28日)「もう一度、立ち止まって考えよう夢洲開発」
8月28日の建設港湾委員会では松崎議員が「万博・IR」と「水道」をとりあげた。夢洲での大阪万博開催が決定してからは、IR事業者もMGMに内定するなど、順風満帆だった。しかし、ドバイ万博や東京オリンピックは延期がきまった。IRも決定時期が白紙に戻り、先行きが不透明だ。そこで、松崎さんは夢洲開発が将来の負の遺産にならないかを確認した。
万博・IRが開催される夢洲の開発整備費は、大きく分けて2つある。1つは夢洲の埋立でもう1つは夢洲とコスモスクエアをつなぐ地下鉄(北港テクノポート線)の延伸だ。その費用は大阪市だけでなく、IR事業者と鉄道事業者も負担しあう方式だ。内訳は総工費540億円で、大阪市が202億円を負担するが、万博後もIR事業者の負担金202億5千万円と令和11年度までの賃借料209億8千万円で計算上は黒字になる。ただ、世界最大のカジノ ラスベガスサンズは横浜市からの撤退を表明。大阪のカジノに立候補しているMGMもコロナ禍でオンラインカジノ強化を鮮明にしている。松崎さんは、IR誘致が実現しなければ埋立て事業が資金不足になることも視野に、万博会場変更も含めた善後策を検討することを求めた。
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また、水道事業は特別区となった場合、大阪府が4つの特別区だけの水道事業を運営維持するとは考えられず、府域水道企業団に行くことが目に見えている。そして、いくら水道料を値上げはしないといっても値段を決めるのは大阪府議会で値上がりすることも目に見えている。(なぜなら大阪市内の府議会議員は88人中27人しかいない)大阪市民だけでなく大阪市を訪れる人々の水を守り、6000億円近くの資産を持ち、年間100億円近くの利益をあげる水道事業を市民から奪われる。だからこそ、特別区設置協定書には賛成できないと締めくくった。
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理事者の答弁は、「IR事業者の誘致が破談となった場合、他の土地活用を検討していくことを考える」「水道については平成30年にまとめられたあり方協議会の報告書に基づき、個々の事業者体間でウインウインになるよう実情に応じて広域化を図っていく」といったもので明確な回答はなかった。

〇財政総務委員会(8月31日)「民主主義の根幹を守る」
8月31日の財政総務委員会では、武さんが「財政シミュレーション」と「コロナ禍の住民投票の意義」を質問した。ただ、武さんが訴えたかったのは「民主主義の根幹を守る」ということに帰結していた。
以下に、武さんの当日の発言を抜粋し、紹介したい。
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この財政シミュレーションは、大阪市民が大阪市を廃止してもよいのかを判断するための重要な資料です。財政シミュレーションは相当な幅を持ってみる必要があるのに、答えが一つしかないこと自体が、おかしな話です。
本来であれば、今示しているものに加え、良い場合、悪い場合のシュミレーションなど、複数のシミュレーションを示して市民に判断を求めるべきで、「相当の幅をもって見る必要がある」などの一文を書いて済む話ではありません。
市民を欺いています。行政が情報を隠さずオープンにすることは民主主義の根幹で、市民にはっきりとわかるようにそれを示さなくてはなりません。
民主主義を成立させる前提条件として、「正確な情報の開示」「市民の参加参画」の2つがとても重要です。この2つは担保されているでしょうか。
コロナ禍で市民のくらしや命が脅かされているときに、民主主義の根幹である、住民参加の十分な担保が行政として、できるのか?
今、現在、コロナ後の世界がどのようになっているのかわかりません。やはり、市民の皆さんが判断しうる正確な情報が開示できるとき、また、弱い立場の人たちも含めてできるだけたくさんの市民の皆さんが、住民参加のプロセスに安心して参加することができるとき、そして、市民の皆さんが冷静な判断ができるときに住民投票を実施することこそ究極の民主主義だと考えます。絶対に、いま、住民投票を行うべきではありません。
市長は、よく「住民投票は、選挙と同じ究極の民主主義」とおっしゃいますが、私は、今回の住民投票が選挙と並列で述べられていることにずっと違和感があります。
選挙は、任期がありますから、実施時期をきめられません。しかし選挙は任期後にやり直すことができます。
今回の住民投票は、実施時期を決められます。しかし、可決されるとやり直すことができません。
住民投票と選挙の大きな違いは、住民投票は実施時期を市長と議会で決められるという点であり、市民にやり直しができない選択を迫る点です。
市長は、「維新の会スタート時の公約で二重行政の解消で統合できてないのは、水道ぐらいであり、例え、知事市長が変わっても今度またバラバラにするのには10年20年かかる」と、都構想いう政策はバーチャルで実現していることを自らも認めているわけです。
ここがポイントですが、都構想の住民投票というのは、都構想という政策の中の最後のピースであって、制度的に実現するための仕上げの手段なわけです。つまり政策的には、いま既に8割~9割ぐらいは、できていて、あと1割~2割ぐらいの制度的担保の部分がのこっていると理解できます。
つまり、都構想という政策はいまでも実施できていて、最後の仕上げのピースである住民投票の実施は、不急なわけです。急ぎではありません。さらに廃止が決まればコロナ対策を行いながら、廃止のための仕事も始まります。
しかも、都構想という政策は既に8割~9割できていて、住民投票を実施しなくても、継続して改革に取り組むことができるにも関わらず、100年に一度のコロナ禍のパンデミックの中、「正確な情報の開示」と「住民参加の担保」という究極の民主主義の根幹を無視して、そして、なにより、市民のくらしやいのちより優先して、住民投票を、緊急(急ぎ)のものにしてしまうことは、どうしても理解ができません。
住民投票が緊急(急ぎ)かどうかを決めるのは、首長であり、最後は議会の我々です。つまり、今、住民投票の実施を決定するということは、住民のくらしや命を守ることよりも、そして、民主主義の根幹を守ることよりも住民投票は、急ぎであるという結論を出すことになります。
最終最後は、市長、そして我々一人一人の議員、議会の良心が問われていると考えます。私は、市民のくらしや命、そして民主主義の根幹を守ることが第一でありますので、いま、この時期に住民投票を行うことには反対です。
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自治フォーラムの共同代表のひとりとして、意見を述べるのであれば、見通しのつかないコロナ禍では住民投票を延期し、大阪市を存続させたままバーチャル都構想を維持できる「暫定都構想」的なものを提案したい。
具体的には、都構想を進取した府市「司令塔」の条例化と都市内分権の条例化が必要だろう
都構想の成長戦略や副首都構想の前提条件であった、インバウンドやIRが来ない可能性もある。膨大なコストと人的資源を費やす、2025年1月の都構想への移行と4月の万博開催の二兎を追うことは現実的でない。1000憶円の収入を見込んだメトロも赤字だ。
改革は必要だが、いまは大きな痛手を伴いかねない住民投票は延期すべきだ。

(注:議会のインターネット中継などから原稿にしたもので、正式な議事録はまだでていません。責任は事務局にあります。)

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