大阪市廃止ってなんやの?(第18回_20201010@東成区民センター)

第18回 自治フォーラムおおさか 大阪市廃止ってなんやの?
~くらしはどうなるん?わたしら損せぇへんの?~
〇司会進行
 高谷 幸 氏:大阪大学人間科学研究科 准教授
〇第1部「くらしはどうなるん?」
 西脇 邦雄 氏:大阪経済法科大学 教授 「最新の財政シュミレーション」
 岡崎 和佳子氏:有限会社 菜の花 代表 「高齢者サービス・介護の現場から」
 武 直樹 氏:生野区社協 元職員 「介護保険・社会福祉協議会はどうなる?」
〇第2部「大阪市廃止ってなんやの?」
 小西 禎一 氏:元大阪府社会福祉協議会会長
〇第3部「 わたしら 損せぇへんの?」
 小西 禎一 氏 × 桜井 智恵子 氏:関西学院大学人間福祉研究科教授

レポート:田岡 秀朋

当日の様子は、youtubeでも視聴いただけます。
https://youtu.be/AfYsyx0w23w?t=528
当日の資料はこちらから。
市が開催する説明会だけでは物足りない。8回でみんなに伝わんの?都構想はメリットばかりなん?ちゃんと知って投票日を迎えよう。そんな思いで、住民投票告示直前の10月10日に「すっきゃねん大阪市」さんが企画されたイベント。自治フォーラムおおさかも共催させていただきました。盛りだくさんな内容でしたが、簡単にその様子をレポートします。
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〇くらしはどうなるん?
■不透明な財政シュミレーション
トップバッターの西脇さんは、都構想になってからのお金の話を中心に。行政の試算でも住基ネットなどシステム改修だけで182億円。万博も予定される2025年に移行のコストが241億円かかる。自民の試算では、1340億円(15年)とされる。移行コストを節約するための「①新庁舎を建設しないのは問題の先送り」で、自分の特別区に庁舎がなく、大事な相談は、中之島へ行ってくれとなること。コロナの影響で4-6月に39億円の赤字となった「②メトロ(地下鉄)頼りの財政収支は不安定」であるにも関わらず、特別区移行後にメトロから1000憶円近くの収入があてにされていること。しかも、メトロの社長も2025年度以降の経営計画はわからないと明言していることなどを取り上げます。一方で、東京都・大阪府と比べると、「③不思議なくらい大阪市がコロナ対策に費やした財源が少ないこと」や、いまの政令市だからこそ維持できている敬老パスや政令市最安の水道代など、「④現在の住民サービス維持の見通しは不透明」と話されます。
■分断しか生み出さない
次に登壇した岡崎さんは、都構想は分断しか生み出さないという危機意識を共有します。それは、大阪市が4つに分断されるということだけではなく、ニアイズベターに最も大切な顔の見える関係でコツコツと作り上げた「①ネットワークや絆すらも分断される」こと。また、一体的に運用されてきた介護・高齢者サービスが、高齢者施策が特別区、介護保険は一部事務組合、安心サポートは大阪府と分断され「②介護保険が崩壊する」ことなどを取り上げます。そして、大阪都にならないのに都構想と言い張る推進派が掲げる「身を切る改革実行中」は「③福祉を切る改革実行中」であり、大阪市を解体し、ネットワーク・民衆さへも分断する住民投票には反対と強い決意を表明されました。
■コストゼロで都構想は推進できる
武さんは、「コストゼロで都構想は推進できる」と呼びかけます。「①松井市長が二重行政はない」と言うなかで、コロナの影響が市民への生活が計り知れない今、大阪市廃止のために1340億円もかけて、やるべきではないこと。また、特別区は「②黒字でやりくりできていた1つの家族(大阪市)を4つの家族(特別区)に分け、本家(大阪府)からの仕送りやおこづかい頼りに変えるようなもの」で、いまよりも財源や権限が弱くなることが明らかなこと。しかも、大金持ちの東京都であれば、財源は安心だけど、赤字続きの大阪府からのおこづかいは期待できますか?と問いかけます。そして、ソーシャルワーカーの立場から、ニアイズベターを支える「③社協がなくなり、移行後は何も決まっていない」こと、「④介護保険は一部事務組合に移行し、特別区だけで決められなくなる」ことを取り上げました。
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〇大阪市廃止ってなんやの?
■“と”んでもない、“と”んちんかんな「と構想」
小西さんは長年の行政マンとしての経験を踏まえ、いわゆる「都構想」の“と”んでもなさを伝えます。まず、推進派の「①都にならないのに都構想といい続ける」姿勢が市民を欺いていること。「②都構想で成長が加速されるわけではない」にもかかわらず、司令塔の一元化と府市あわせ(ふしあわせ)の解消が成長を加速させるという幻想を与えていること。ちょっと難しい話ですが、日本の地方自治制度は市町村の基礎的自治体と都道府県の広域的自治体という二層制で、それぞれの立場で住民第一に政策を練り、不一致があれば、一致点を見出しながらよりよい選択をしてきたこと。それは、1つの司令塔の誤った決断で起こりうる大きな失敗を抑制してきたことを説明します。また、個別具体の事例をとりあげ、二重行政の失敗とされる、WTCやりんくうゲートタワービルはバブルに踊らされていた施策の失敗で府と市の二重行政が原因ではないことなどなどを伝えます。
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そして、大阪市民が蒙る3つの大損として、130年をかけて獲得してきた「①大きな権限と財源、国との直接交渉権のある大阪市を失う大損」、3~4兆円ともいわれる「②市民が築いてきた貴重な財産(水道、消防、公園、病院、等)を失い負担だけは継続させられる大損」、二重行政はないのに「③市の廃止分割のために1300億円負担させられる大損」。2つの不安として、分散することで連携や指示系統に混乱が起こるなど「①感染症対策や防災対策を進める基礎自治体の区域が4つに分割される不安」、限られた人的資源の中で「②コロナ対策や万博の準備を進める時期に市の廃止分割に多くの労力が割かれる不安」を指摘されました。また、大阪府にとっても、都構想は「大阪市という都市づくりのパートナーを失い、新たに「特別区」の補完という仕事が増える」「4人の区長との協議調整さらに区長間の連絡調整」「府域全体の発展をめざしてきた大阪府の役割が変わってしまう」という3つの不幸せが訪れるだろうと言及され、締めくくりました。

〇「わたしら損せぇへんの?」
■大阪府・市の特別顧問からの警鐘
桜井さんはパネルディスカッションを前に、友人である大阪府・市の特別顧問である金井利之さん(東京大学大学院法学政治学研究科教授)のコラム「新地方自治のミ・ラ・イ」(『Governance』2020年10月)を紹介します。要約すれば、都構想は「①大阪市が進めてきた自治拡大の逆方向」であり、「②二重行政の架空性(嘘)」は二重行政で無駄があれば、どちらかが一方的に削減してきたはず。「③単独決定の架空性(嘘)」として、市・府の2首長で決めていたことが、府・区の5首長で決めなければいけなくなるし、強権だと独裁になる。「④生産力の架空性(嘘)」として、開発投資のリターンは皮算用であり、リターンがあったとしても大阪府は多数派の大阪市外への投資を推進するか、少数派である元大阪市域にカジノや軍事施設などの迷惑施設投資をするだろう。「⑤政治の妙味」として、もっともらしい話をして『損する人に賛成させること』など、詐欺的行為を正当に行うこと、という内容でした。
そして、桜井さんはバルセロナやパリ、アムステルダムなどが取り組む“ミニシュパリズム”を紹介します。地域住民が直接参加する市民会議を設置したり、地元経済や環境を優先したり、グローバル資本主義に対抗しようとする自治体の動きのことで、住民投票を前に「府市あわせ(不幸せ)ではなく、府市合わせの開発投資で不幸せになるのは誰?」「開発投資で得をするのは誰?」と問いかけました。
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■自分にできることをやりきろう
意見交換では、各登壇者それぞれが住民投票への想いを参加者に伝えました。
武さんは「見えないものは失ってから初めて価値に気づく」「コロナ禍で目の前で市民が困っているなかで、開催期日を自由に決められる住民投票を実施することは信じられない」「推進を前提とした市の説明会だけでなく、メリットもデメリットもあることを僕は伝えていきたい」「もう一度、民主主義の大前提である、正確な情報を知って行動を実践していこう」。
岡崎さんは「東成区が新北区、生野区が新天王寺区になったら、東成区民センターは生野区民がいままでどおり使えなくなるかもしれない。これが大阪市を4つに分断するということ」「住民投票に行かないのは都構想を黙認することになる。やっぱり投票にいこう」。
西脇さんは「コロナ禍で信用保証協会貸付の申請は昨年度の100倍。住宅確保給付金は4-6月の申請で昨年度の6倍」「正確な情報に触れて、冷静な判断を
小西さんは「もうかるのはIR企業で、市民にとっては都構想そのものが“バクチ”」「大阪市内集中投資はポストコロナでは時代遅れ」「やってみなはれの精神で都構想になると、市には二度と戻れません。わからないなら反対を」
桜井さんは「絆やネットワークという見えにくい価値の分断は想像以上の無駄と損を生み出す」「市民よりも市場を優先する都構想には撤退を」「自治は友達やご近所さんとのおしゃべりからはじまる。ぜひ学んだことを伝えてください
と呼びかけました。
最後に、主催者であるすっきゃねん大阪市さんが「ハチドリのひとしずく」という南米アンデスの民謡を披露しました。みんなが山火事で逃げ出す中、ハチドリだけが小さな嘴に水を一滴ずつ含み、燃え盛る炎を鎮火しようとしていた。逃げ出す者は「そんなことをして いったい何になるんだ」と問いかけますが、ハチドリは「私は、私にできることをしているだけ」と答えました。

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