総合区ってなに?(第19回_20210123)

第19回 自治フォーラムおおさか 総合区ってなに?
~地域自治区からはじめよう~
〇ゲスト
 金谷 一郎 氏 (大阪経済法科大学 客員教授)
 冨田 一幸 氏 (エル・チャレンジ 代表理事)
 武 直樹 氏 (いくの市民活動支援センター代表理事・大阪市会議員)
〇進行・趣旨説明
 西脇 邦雄 氏(大阪経済法科大学 教授)

レポート:袈裟丸 朝子
当日の様子は、youtubeでも視聴いただけます。
https://youtu.be/9HSnesHN9Ds
当日の資料は、こちらから。

みなさん、こんにちは。
2021年最初となる第19回の自治フォーラムおおさかは、新型コロナウイルス感染拡大予防のためWEBでの配信となりました。大阪市の存続は決まりましたが、11月1日の住民投票で問いかけられた大阪の課題はどうなるのか?
自治フォーラムおおさかでは、もう一度、『私たちの大阪のまち、これからどうしていく?』という原点に立ち戻り、 難しいけれど重要な「制度や行政システム」と、身近な「日々の暮らしや地域生活」 を考えていきます。
今回は「総合区」に注目し、3名のゲストとともに、総合区は大阪市の抱える問題解決につながるのか?二アイズベターの住民自治実現に寄与するのか?といった視点で議論しました。
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■総合区とはなにか? 地域自治区からはじめよう 西脇 邦雄
総合区は2014年の地方自治法改正で誕生した新たな仕組みで、まだ全国でも総合区を導入した政令市はありません。1度目の住民投票後の大阪市では特別区と総合区が並行して議論されていました。公明党は8総合区案(2017年)におおむね賛同し、自民党は24総合区案には見解を表明するなど、総合区に強く反対する姿勢は感じられませんでした。
とはいえ、2度目の住民投票では総合区が問われたわけでなく、住民の理解がすすんでいない中で総合区に移行をするのは早急すぎます。まずは、総合区を「都市内分権」「住民自治」という観点で、住民からボトムアップの議論がなされるべきです。例えば、イギリスのパリッシュが有するような住民自治組織の地域課税権は導入できないのか?地域活動協議会が法人格をもって活動したらどうなるか?斉藤幸平先生が提唱する「コモンズ」の概念を導入して社会的な富を地域住民・行政が活用するための市民営化ができないか?など都市内分権で議論できるテーマはたくさんあります。地域自治区が導入された上越市では、地域自治区の議会ともいえる地域協議会で女性委員やNPOの代表が増えたという事例もあります。住民自治を進めるうえで大切なことをもう一度、議論すべきです。
また、二重行政の解消を大阪府に権限移譲する方式である“都構想(特別区)”は地方制度調査会が考える都市内分権と真逆の流れでした。第30次地方制度調査会では、二重行政があれば、指定都市に権限を移しましょう。区の役割を拡充しましょう。という答申がなされていました。よく比較される横浜市は18区で、大阪市よりも少ない区数で、区役所への権限をより大きくする“大”区役所で都市内分権を進めています。
政令市でも区別人口が少ない24区のままでいいのか?市内での貧富の格差をどうやって解消するのか?大阪市の抱える課題にむけて、総合区は向き合う価値のあるテーマだと思います。

地域自治区は、日本において、市町村が、その区域内の地域に、市町村長の権限に属する事務を分掌させ、及び地域の住民の意見を反映させつつこれを処理させるため設置する自治・行政組織の一つ。(Wikipediaより抜粋)

■シティマネージャー・区長の総括と総合区の評価 金谷 一郎
2度目の住民投票が全国ニュースでも話題になったのは、これは大阪市だけの問題ではなく「大都市」の問題という認識が大切です。人口減少社会を迎え、複雑化する課題にどう向き合うのか。ぜひとも、住民投票と向き合ったエネルギーを絶やすことなく、これからの大都市のありかたについて、議論を深化させてほしいです。
公募区長制度が導入され、シティマネージャー予算の新設と区の独自予算が拡充され、区長は本庁(中之島)の局長以上の役職であるという位置づけがなされたことで、地域に根差した複合的・総合的な対策を立てやすくなったことは事実です。かつては、いくら区長が地域の事情に精通し、事業を推進しようにも、上司である局長や本庁の理解がなければ進みませんでした。しかしシティマネージャーが区長だけですから、局職員は、動きません。
とはいえ、区長権限が拡充される総合区になれば、横断的な連携もでき、区独自の取り組みが推進されるようにも思えますが、区長はどうやって選ばれるのか?選ばれた区長が本庁に物申す(意見具申権)権限を本当に使うのか?使った場合どのように反映されるのか?など不明な点も多いです。また、多様な意見が反映される議会をつくろう。という視点であれば、合区を伴う総合区であれば、1区あたりの議員数も増加し、少数の意見でも当選する可能性は高まります。
特別区・総合区・行政区で万能の制度はありません。それぞれのメリット・デメリットを市民のみなさんに理解いただいたうえで、これからの大阪市のあり方を考えていきたいです。
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■西成特区構想と分権 冨田 一幸
西成特区には前史があります。ホームレス問題を看過できなくなった2000年頃、釜ヶ崎の社会福祉法人大阪自彊館の前理事長の吉村靫生さん(故人)や元環境相事務次官の炭谷茂さんが奔走し日本型CAN研究会を設立されていました。当時は聞きなれないソーシャルエンタープライズ(社会的企業)等を取り上げ、都市行政課題が集中的に表れていた英国の「ブロムリーバイボー」の実践などを共有し、同様の課題が集中する「あいりん地区」「同和地区」でも推進できないか、研究を深めていました。
そして、2012年橋下市長は西成特区構想をぶち上げました。原案は自由競争に傾いたオールクリアランス構想に近かった。でも、地域で蓄積された活動や知見をないがしろには進まない。住民参加のボトムアップでないと進まない。という助言をうけ、住民参加型が取り入れられていきます。
当時の担当顧問 鈴木亘氏は西成特区構想をボーリンリグのセンターピンに例えましたが、それは現在も新今宮駅再開発やあいりん労働センターなどボリューム感を保ち、まちづくりのプレイヤーを育成したり、地域の声を届けるエリアマネジメント協議会など、オールクリアランスとは一味違う手法で進められています。
西成特区構想は橋下さんのアイデアでしたが、丸投げだった。この「丸投げ」がむしろよかったのかもしれません。「丸投げ」をされたメンバーが、特区構想に区役所分権(地域の声の反映)を付加しつつ、行政の効率化や地域課題の解決に民営化(商業化)だけではなく市民営化の視点を持ってプレイヤーを育てています。行政区としての西成区と政策区の西成特区。この2層がタッグを組みながら、課題解決に取り組む姿は、これからの都市内分権を先取りしているという感覚があります。ただ、1つだけ欠点を指摘するとすれば、西成区選出の市議会議員の役割が見えにくいことです。
賛否は分かれていますが、総合区は大阪市の本庁ではなく、身近な地域に権限が拡充すること。常任委員会が設置されれば、身近な議会となって役割を果たせること。西成特区の取り組みを、これからの都市内分権や総合区を想像するときに重ね合わせてみてはどうでしょう。
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■市議会の議論と住民自治の視点から「住民参加の自治・議会のあり様について」 武直樹
総合区を設置すれば「住民自治」は拡充するのか?という問いもありますが、僕なりの推進していくためのポイントを説明します。
かつても、いまも、これからも大阪市は、NPOや当事者団体、少なくない住民のみなさんが「まちのために何かしたい」そういった想いを持ち活動されていると思います。そして、地域力はある。そう信じています。でも、想いや活動だけでは「住民自治」は行き詰まります。住民自治を進めるうえで必要なのは4つです。「都市内分権」+「声が届くしくみ」+「声を届ける住民」+「コーディネートする力量」がないとすすみません。
24行政区の方がニアイズベターで住民自治が進むという考えもありますが、現状を見てください。住民参加がうたわれながら、区の地域福祉計画策定に住民の参画がありますか?コロナ対策の「カッパ騒動」でまちからカッパが消えましたが、市役所には山積み。状況を変えようと、生野区のどこかでカッパを譲り受け、求める事業所に配布する仕組みを提案しても、「ワン大阪市(24区一緒に)」という名のもとに、全く実現されませんでした。
いま8総合区案が話題となっています。「声を届ける住民」がいるとして、総合区に権限が委譲される「都市内分権」が進み、「声が届くしくみ」ができるという見方もありますが、住民の参加・参画をうながす区役所や社協、地域団体などが「コーディネートする力量」=“中間支援の役割”を果たせるのか。そこをしっかりと議論したいです。職員が足りないのであれば、そこは担保しないと。そうしないと、絵に描いた餅になってしまいます。
いまでも課題はあるのです。合区や新たな総合区の導入などに抵抗があることも理解しています。でも、まずは痛みが許容できる範囲からモデル的にでもスタートさせればいいのではないでしょうか。例えば、いまのまま地域自治区を導入したり、大阪市議会に複数の区行政ごとで議論できる常任委員会を設置したり、できることはあります。対立ではなく、互いに前を向いて、これからの大阪市を議論していくことが大切ではないでしょうか。
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■まとめ
質疑等への回答を終え、最後にそれぞれが地域自治区をすすめるためのポイントについてまとめました。
金谷さん:平松市長がつくった地域活動協議会は、従来の地縁組織に加えて学生、企業、従業員も含めて住民ととらえた。この地域活動協議会の総括を踏まえて、より地域自治のあるべき姿の議論を進めていくべき。
冨田さん:地域自治区「運動」という発想が必要。地域を担う人をどう育てるか、そしてNPO等が参画できる仕組みをどうつくれるかがポイント。
武さん:仕組みをつくれば住民自治が進むわけではない。それを活用する住民と、それに応える行政がなければ上手くいかない。地域活動協議会や権限が強化された区政会議も、想定していた通り動いているのでしょうか。
西脇さん:地域の声を反映する仕組みでもある、地域自治区と地域協議会は合併により消滅した自治体を対象としたものでした。それが拡充され、いまは自治体判断でも導入ができます。こうした、法律に裏付けされた住民自治を推進できる仕組みを活用するよう働きかけて、市民運動的に住民自治を高めていく。そんな方法も含めて、議論を今後もみなさんと進めていきたいです。

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