~新型コロナと地球環境危機~
〇ゲスト
斎藤 幸平 氏 (大阪市立大学大学院経済学研究科 准教授)
〇進行・趣旨説明
西脇 邦雄 氏(大阪経済法科大学 教授)
レポート:袈裟丸 朝子
当日の様子は、youtubeでも視聴いただけます。https://youtu.be/JnyWEeEf338
当日の資料は、こちらから。
みなさん、こんにちは。
さて第20回自治フォーラムおおさかは「これからの社会運動を考える!パート2」として、いまをときめく斎藤幸平さんを再びお招きしました。欧州都市などの事例を紹介しながら、新型コロナ危機が問いかける格差や社会の分断、まったなしの気候変動とどう向き合い、人を中心としたまちづくりを大阪で実現するための可能性について講演いただきました。
今回は自治体政策研究会との共催でウェブ配信でしたが100名を超える方の視聴がありました。

■人を中心としたまちづくりのために
冒頭、ポスト(アフター)コロナにおける新しい社会をどう構築していくかにあたって、「自治体から変えていくことが重要」と斉藤先生。日本では環境問題が票にならず、いきなり国を変えるのはハードルが高い。「成長しなればならない」「経済優先」といった社会の価値観を揺るがし変えていく社会運動が必要で、その先に「人を中心としたまちづくり」がある。これを大阪でどう取り組めるか、そのヒントとなるような話をできればと始まりました。
■SDGsがなぜ大衆のアヘンなのか?
新型コロナウィルス感染症によって、エッセンシャルワーカーの重要性や気候変動についてようやくメディアが取り上げるようになった。しかし残念ながらコロナは人類にとって最後の危機ではない。気候変動によって激変する世界、コロナはその始まりだと言えるかもしれない。すでに日本や世界で起こっている「異常気象」は多大な影響・損失をもたらしており、それらのツケを払わされるのは次の世代。
今すぐにでもアップデートしないと気候変動で地球は破滅を迎えるだろうが、持続可能な社会を目差し本気で取り組んでいるようには思えない。例えば学校で「節電しましょう」「設定温度を下げましょう」とやっても2050年ゼロエミッション(二酸化炭素排出実質ゼロ)は達成できるわけはない。だから私はあえて「SDGsは大衆のアヘン」と強い言葉を使った。SDGsを批判しているのではないが、小さなアクションに満足して、もっと大切なアクションを忘れさせることに警鐘を鳴らしている。SDGsが企業の広告やPRに使われ、今まで通りの生活を続けさせる免罪符にされるのなら、百害あって一利なしという意味でアヘンなのだ。SDGsを掲げ、ハンバーガーの包装を紙にしたとしても、大量消費し続けるのならば、それは持続可能な未来につながっているのか?

■2周遅れの日本
二酸化炭素排出量のデータから、パリ協定以降、CO2は増え続けていたが、2020年は5~6%減少した。これは、コロナ禍によって経済活動が落ち込んだ結果。つまり経済活動を減らせばCO2は減ることが証明されたともいえる。しかし、リベンジ消費もあり2021年は元に戻ると推定されている。日本では1990年すでに飢えもなく十分暮らしていける水準であったのに、そこから30年CO2は増え続けている。そんな状況はさすがにまずいと、環境と経済を同時に回復させる方法としてデカップリング(切り離し)に大きな期待が集まっている。つまり、技術革新によってCO2排出量を減らしながら成長を目指す、地球環境への負荷を劇的に減らせる「緑の資本主義」が欧米では進んでいるが、日本はこの分野で周回遅れ(これは1周目)。
中国や欧米は、環境を破壊する企業には退場してもらう規制(ルール)づくりを進めているが、日本は出遅れている。例えばトヨタは脱炭素化で最低評価。先日のCOP26でも岸田首相から環境問題に関して積極的な言及はなく、2年連続化石賞を受賞する始末。さらに、いまだ「原発・火力発電VS再生エネルギー」という構図で、世界の対立軸である「緑の資本主義VS脱成長」からは程遠く、2周遅れている。
永遠の経済成長はおとぎ話であることを子どもたちは見抜いており、必要なのはシステムチェンジだとグレタは訴えている。こうしたミレニアル、Z世代(ジェネレーションレフト)が20-30年後リーダーになっていくだろうが、日本にはこうしたうねりが見られず、「将来どのような方向にむかうのか」といった大きなビジョンがないという意味でも周回遅れを加速させている。だからこそ、価値観のアップデートが必要だと思っている。
■なぜ「みどりの資本主義」が問題なのか
緑の資本主義「いいね」となってしまいがちだが、EV+再生エネ+省エネが推進されている今でも、地球環境の負荷は増え続けている。GDPとマテリアルフットプリント(資源の利用料)の相関は明らかで、経済規模が2倍になれば、資源消費も2倍になる。緑の資本主義が期待するデカップリングは達成できていないのが現実だ。
また、技術革新が進み生産性が上がることで安くなり、多くが消費されるというジェヴォンズのパラドックスも起こっている。あたかも、リサイクルや太陽光発電は自然に優しいと思われがちだが、資源を消費していることには変わりがない。
また、炭素エネルギーばかりが注目されるが、先進国のグリーン成長を可能にするために別の資源も搾取されている。電気自動車の生産にはレアメタルなど多くの資源が必要であり、資源生産地の生活を破壊し、劣悪な労働条件のうえに成り立つしくみはこれまでとほとんど変わらない。地球にいいことをしているという免罪符の裏で、発展途上国や資源生産地から様々なモノを奪っている醜悪なシステム(帝国的生活様式)に気づくべき。

■ちがう道を探る
そもそも気候変動対策はCO2を減らすことではない。もっと人が幸せに暮らし、CO2も減らすことができる、そんな未来をイメージすべきだ。それは、いまの暮らしを前提にした延長にはない。たとえば、もっと少ない労働時間、移動は自転車を基本にする。そうすれば、GDPは増えなくとも、みんなで子育てをできる時間を確保でき、まちの中心部の車道も遊歩道となり、CO2の排出を抑えながら豊かな暮らしが確保できるのでは?そうした問いすら、日本は設定できていない。
一方、ヨーロッパでは週休3日制が真剣に議論されている。先進国のGDPをスケールダウン(脱成長)させることで、劇的なデカップリングも不要になる。ファストフード、ファッション、SUV、リニア、カジノ、24時間営業など、社会全体で過剰なものを手放すことを考える時だ。それは、成長はなくとも、週末には子どもと出かけ、消費主導ではない公園、広場や図書館などのパブリックスペースを増やそうという人を中心としたまちづくりにもつながるはずだ。

■ミニシュパリズム
地方自治体を意味する”municipality”を語源とした、地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を重視するミニシュパリズム。ヨーロッパの革新的な自治体や市民が取り組んでいる新しい政治、社会運動のあり方がそう呼ばれている。日本では地方部で起こっている里山資本主義がこの発想に近いが、ミニシュパリズムのポイントは「都市」からの変革であること。バルセロナ、ベルリン、アムステルダムといった大都市で、女性のリーダーが台頭し、これまでの打ち負かす政治ではなく、助け合いの政治が志向されている。
バルセロナ市長のアダ・クラウは、市民が自分達で政治をつくろうとする「バルセロナインコモン(市民プラットフォーム)」の取組みから誕生した。観光地化がどんどん進み、高騰する家賃への反対運動に取り組んでいた彼女は、市民グループに自分たちの候補として擁立され市長になった。就任後は、気候非常事態宣言やDECIDIM(市民参加のためのデジタルプラットフォーム)を導入した。DECIDIMは日本では加古川市が導入しているが、オンラインで住民が簡単にアクセスし、地域のことや気づいたことで意見を交わすシステムで、一定の「いいね」がたまると行政にもつながり、ワーキンググループができたり、条例につながることもあるシステム。
■さまざまな「コモン」
また、バルセロナでは自動車が多く渋滞や大気汚染が深刻だったが、1区画(400m×400m)をスーパーブロックとして車が入れないようにした。そこでなにが起こったか。
道路は車の通行のためのものであり、子どもや高齢者、車を持てない貧困層は端っこに追いやられていた。車が通らなくなるだけで、道路が「コモン」となり、子どもたちの遊び場や高齢者の遊歩道に生まれ変わった。その経験は、まちは自分たちのものであるという意識をより強くし、自転車や歩くことで車では見過ごされていた地域の商店も活性化した。

日本では考えられないが、パリではグローバル企業にNO!を突き付ける社会党のアンヌ・イダルゴ市長が車の制限速度30Kmを導入済みだ。オーストリアでは、11万円(300円/日)で公共交通の乗り放題年間パスがスタートしている。ベルリンでは、3000戸以上を所有する大手不動産会社を対象に、州が住宅を強制収用し(買い上げ)、公営住宅に転用する住民投票が可決されている。可決されても法的な強制力はもたないが、草の根運動が住宅再公営化への圧力になっている。また、アイルランドのマイケル・ヒギンズ大統領は、西欧のトップとして、はじめて「脱成長」を宣言した。
市民の声があれば政治も動く、脱成長ですら検討されるようになる。私たちもそうした動きに続くべきだ。
■質疑応答
Q:日本の若い世代は保守化し、「変化」を望んでいないのでは?
A:危機であるにも関わらず大きなストーリーを野党も含め描けていない。危機を前にして自分の生活を守るために若い世代は保守化してるのでは。アクションを起こすことで変えられると大人が信じていないことを見抜き、そのような「大人の振る舞い」をみて、声をあげないことが賢いと保守化する。ただ、そのツケを払うのは若い世代。大人が席を譲り、若い世代の提案が聞き入れられるフェアな社会を大人がつくらなければ、変わらないのでは。

Q: 紹介あったヨーロッパの取り組みを、大阪で当てはめるならどのようなイメージになるか?
A:プラットフォームづくり。まずはそこから。
IRは必要なのか?大阪メトロを学生・高齢者は無料にした再分配策など、いろいろなアイデアを出し合いながら、市民がイマジネーションを取り戻せるかが鍵。
Q:消費が正義という社会のベクトルを変えていくには?
A:日本ではアクションを起こし何かが変わったという経験が乏しい。DECIDIMは自分たちが参画できるシステム。まちの事業に市民の裁量が認められやすいシステムをつくり、変わった経験を積み重ねることで、主体的な参加を促進することが大切。
Q:経済のダウンスケールとイノベーションの両立について
A:イノベーションを手放せとは考えていない。現在の経済システムを維持したままでは、イノベーションを台無しにしてしまう逆向きのベクトルが強すぎる、それを危惧してる。リサイクル率は上がるけれど、ファストファッションが増えれば意味がない。コロナ禍で出来た経済のダウンスケールが、環境破壊を目の前になぜできないのか。ダウンスケールは社会全体で制御する段階に来ている。
■まとめ(武市議)

大阪、しんどい状況ではある。けれど諦めたらダメ。斉藤先生の本が40万部売れていることは、今のままではダメだと気づいた人が少なからずいてることの証左。
アクションを起こすことで、まちが、社会が変わる、その成功体験を市民が積み重ねることが次に繋がっていく、その通りだと思います。
市民のみなさんとプラットフォームをつくることの意義・大切さ、改めて感じました。動こうとしている市民はいます。希望をなくさず、みなさんと一緒に、引き続き大阪のまちづくり進めていきます。
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