「総合区ってなに?」パート2ー特別自治市と区のあり方を考えるー
◆ゲストからの問題提起
1「 特別自治市を考える〜大都市の中枢性の分析から見えるもの〜 」
北村亘 氏(大阪大学大学院法学研究科教授 行政学)
2「 大阪市の総合区導入について 」
柳本顕 氏(衆議院議員 、 前大阪市会議員)
◆報告と話題提供
3「 シティマネージャー区長の成果と課題 」
金谷一郎 氏(大阪経済法科大学客員教授 、 元東淀川区長)
4「 大阪市会議員定数削減問題と区のあり方 」
武直樹 氏(大阪市会議員 、 自治フォーラムおおさか代表)
みなさん、こんにちは。
2度目の住民投票から1年以上が経過しましたが、大阪市議会では分権型の大都市制度をめざし「総合区」が議論されるなど、政令市と区がどうあるべきか模索は続いています。また、都道府県と政令市との関係では「特別自治市」を目指す動きもあります。第21回自治フォーラムおおさか【総合区ってなに?パート2】は4名のゲストをお招きし、大都市制度論を掘りさげ、都道府県・市・区のあり方について議論しました。今回も自治体政策研究会との共催です。進行の西脇先生より、都構想に対して単なる反対ではなく、対案をどうつくっていくか考えていきたいとの開会挨拶からスタート。
それでは、以下レポートです。
文責:けさまる ともこ
アーカイブ動画視聴はこちら
https://youtu.be/Sguy8CKGE1A
当日資料はこちらから
https://drive.google.com/drive/folders/14zXP2Z-z7U8Gte_oprG93SlA2bBC1V8A?usp=sharing
■ゲストからの問題提起
①「特別自治市を考える〜大都市の中枢性の分析から見えるもの〜」
北村亘 大阪大学大学院法学研究科教授(行政学・地方自治論)
2013年に『政令指定都市』を執筆された北村先生。2度の住民投票を経て大阪市民は「大都市制度」にもっとも精通している市民だとおっしゃいます。執筆から約10年が経過し、当時と現在の「大阪市の変化」について、最新のデータで明らかにし、大都市制度を改めて考えることを説いておられました。
冒頭では、地方自治制度や政令市の概要と歴史について説明されました。「政令市」は申請主義で、人口要件(50万人以上)を満たせば政令市になれるものの、申請しない都市(松山市・鹿児島市など)があったり、政令市の申請ができない特別区(世田谷区など)があったりします。特別自治市なのか、総合区なのか、特別区なのか、何を目指すかは都市の特性を把握してから検討すべきと指摘されました。
※地方自治制度や指定都市の概要は、第2回の自治フォーラムで詳しく説明しています。
http://lgforumosaka.seesaa.net/article/460562800.html
都市の特性を把握するため、20政令市に主成分分析を試みると、「中枢性(母都市的機能)」と「能力供給性(社会経済的自立性)」の2軸が統計学的にも有効な分類軸として抽出されました。
2013年の分析でも2022年の分析でも共通して言えることは、大阪市の中枢性は20政令市の中でも突出しているということです。名古屋市、福岡市も中枢性は高いですが、大阪市の中枢性は突出しています。他方、能力供給性では変化があります。2013年の分析では、大阪市と名古屋市は、周辺にヒトとモノを提供する能力供給性では低かったですが、その後、タワーマンション建設などによる都心回帰の傾向が強まったことや本社機能が皮肉にも東京に移動したために流入人口の比率がやや減ったことなどによって2022年の分析では大阪市と名古屋市の能力供給性が向上しています。つまり、大阪市、そして名古屋市が中枢性も高く、能力供給性も高い大都市だといえると思います。
また、北村先生は大阪府内市町村と大阪市24区の主成分分析の結果も紹介され、府内市町村の特徴は「都市度」と「持続可能性度」で分類できること。大阪市24区は「生活拠点度」と「都市度」で分類できることを示されました。府内市町村の分類は、都市間の水平連携を考える上で重要な点であり、大阪市24区の特徴も総合区の区分けや市内での業務執行体制などを考える上で重要な点だと思いますが、ここでは割愛します。詳しくは、当日の配布資料をご覧ください。

②「大阪市の総合区導入について」
柳本顕 衆議院議員、前大阪市会議員
市会議員を5期務め、国会議員1期生として国政で活動する柳本議員は、国レベルでの「大都市論」の位置づけを中心に報告されました。
まず、都市論は「政策論争」と「政治闘争」ふたつの側面があり、2度の住民投票で否決された大阪の特別区は政治闘争的な動きを含んでいました。政策的にみると、政令市制度は20市に増え多様化しており、本当に都市の成長や課題解決につながる制度なのか疑問です。大都市だからと言って、重点的な予算配分はほとんどなく、これまで国において「大都市制度」を真剣に考えてきたとは思えません。東京都を首都と定める法律もなく、政令市のない都道府県は約30あり、知事会での「大都市」への関心も高くありません。逆に、政令市議の出身の国会議員は「大都市制度」への関心が高い印象です。横浜を特別自治市にしたいという思いをもって国会議員になった前横浜市議、名古屋市に新型コロナ感染症対応でもっと権限があれば迅速な対応できたという想いもつ前名古屋市議も同期生です。
大都市は「金の卵を産む」だけでなく、貧困やマイノリティなど都市課題が集積します。成長だけでなく、課題解決にも着目した議論が欠かせません。大都市特有の課題解決のために必要な財源については、大都市だから一定税収も多く自前で解決できるという訳ではないのです。
現在、「特別区」設置のための法律、「総合区」について法整備がなされ、大都市のあり様についての選択肢は増えていますが、総合区が議論の俎上に載っているのは大阪だけ。政策論争的には大都市のあり方を議論することは必要で、住民自治の強化等、現実的な議論を進めることは大切です。でも、実際に検討しているのが、大阪市だけでは国の関心が高まるとは思えません。
住民自治の強化を含めて大都市制度を大きく変えていくなら、政策論争だけでなく「政治闘争」として昇華させないと動かない部分があります。大阪府・市議会で議員定数削減が進められても、1人区、2人区が増えれば、多様な住民の声が届かない議会になります。行政区の合区はハードルが高いでしょうが、例えば、府会については大阪市内を一つの選挙区とする大選挙区にするとか、大阪市会についても選挙における任意合区というような対応を進めれば、妥結点が見つかるかもしれません。
■報告と話題提供
①「シティマネージャー区長の成果と課題」
金谷一郎 大阪経済法科大学客員教授、元東淀川区長
2度の住民投票の結果、大阪市を残すという市民の意思ははっきりしたと思います。ただ、24区のままでいいのかは、考える時にきていると思います。
誤解されていますが、区長とシティマネージャー(CM)制度は別のものです。兼任しているので同じものと思われがちですが、区長がCMを兼任しているのが大阪市で、他の政令市にはない制度です。区長権限を強くし、ニアイズベター実現の手段として、大阪市ではCMを導入していますが、それは本当でしょうか?
区長が差配できるのは区役所が所管する業務です。区役所業務が少なければ、いくら区長に権限を持たせても実行力を持ちません。大阪市の区長&CM制度は「強区長・小区役所」で実際できることは、現実は限られます。一方で横浜市のようには区役所で所管する業務が多い「強区長・大区役所」でCMが導入されなくても、もっとできることはあります。つまり、大阪市のCM区長は仮想(バーチャル)ニアイズベターで、本庁(局)の力が大きいままだったのです。ニアイズベターを実現するには、「区役所の権限」「区長の権限」2つの視点が必要です。
では、総合区になればどうなるのか。総合区長も現在の公募区長と同じく行政職員です。総合区はいまよりも「大区役所」になり、総合区長は「市議会での承認が必要な特別職」であり、「予算の意見具申」ができるなど権限は強くなります。権限が少ないとわかりながら、現在の公募区長&CM制度を導入した背景には、ニアイズベターは24区のままではできない。だからこそ、「特別区」「総合区」の導入に熱が高まるかもという、意図があったのかもしれません。
「区役所の権限」を強めるのであれば24区は多すぎます。現在の大阪市にふさわしい区役所、行政のあり方を、都市内分権と住民自治の視点で考えるときが来ていると思います。本庁(局)が管轄する事業所業務が、おおむね7ブロックに区分されているのであれば、それを参考にしながら「局から区」へ権限移譲ができる区割り案をすでにある3案を参考に考えるのが現実的です。また、「総合区」となっても選挙を経ない「区長」の力量による地域間格差を少なくするには、地域の声を反映させる「地域自治区・協議会」の位置づけを高め、市長・区長への意見具申権を強めるという視点も大切です。
②大阪市会議員定数削減問題と区のあり方」
武直樹 大阪市会議員、自治フォーラムおおさか代表
ソーシャルワーカーという立場で、住民参加と住民自治を実現する手段として議員をやっています。市民活動に関わると「区役所の壁」「市役所の壁」を感じる場面が多々ありました。「これは区役所ではできません。市役所で相談してください。」と今までは言われていました。現在は、逆で市役所に行くと「これは市役所ではなく、区長(区役所)の業務ですね。」となります。表向きは、CM制度で主導権を区に移譲しましたが、いまのままでは機能しません。むしろ区と市の責任所在があいまいになった部分もあります。例えば、バリアフリー基本構想や地域福祉計画はまさにそれです。権限だけでなく専門性の問題もあり、区と市でたらいまわし状態になります。
明確な線引きができないのなら区・市が一緒に連携すればいいのに、なかなか進まない課題があります。また、区政会議のチェックがどこまで機能しているのか疑問です。区議会もない、区政会議も形骸化する24区のままでは、公募区長の力量で格差が広がっていく側面もあります。30次地方制度調査会、特別自治市でも指摘されている区を単位とする常任委員会設置の議論も必要だと思います。
大阪市会で住民自治拡充や区政のあり方について「大都市・税財政制度特別委員会」で議論することが決まりました。松井市長は住民投票時に提示した8区案賛否を問えば十分というスタンスです。議会側で議論を深めることは必要という点で各会派が合意し、今に至っています。
また、区割りだけでなく、選挙区のあり方や議員定数についても、市民のみなさんの関心を高めていきたいです。大阪市は人口に対する議員数は決して多くありません(32,000人にひとり)。2・3人区も多く、多様な声が届きにくい中選挙区の選挙です。行政区=選挙区のままでは、野党系の大阪市議は出てこないかもしれません。合区アレルギーがあるのは知っていますが、合区が難しいのなら、議員定数だけでなく選挙区のあり方についても検討を進めるべきです。貧困やマイノリティの課題と向き合う都市の宿命として、小さい声が届く政治の実現は大切です。

■ディスカッション
【柳本】
現状に課題があり、制度改革が必要であるという認識は多くの方々において共通していました。ただ、合区ありきで進めると抵抗感があるのも事実。合区なしで、24区を8総合区と16行政区で区割りをそのまま残すという手法も考えられます。ブロック制も導入し、総合区がブロックの課題に対応する常任員会を設置するなど、視野を広げて柔軟に考えていくことが大切。
【金谷】
ブロック制は議論されたことがありますが、24区を格付けして差をつけることになるので、実際には難しいと思います。どこが「総合区」になるのでしょう。とはいえ、都構想が否決されたいまこそ、市民にひらかれた議論に着手すべきです。
【武】
環状線の内外格差でも触れられる人口問題は重要な課題です。増える区と減少する区が生じるなかで、行政区がこのままの24区でいいのか?市民が参加することはもちろん大切ですが、未来の大阪市のありかたを決定するための仕掛け?政治闘争的な動きも必要だと思います。
【会場より】
大阪市はいまの課題だけではなく、未来の都市課題に対して、このままでは困難な状況を迎えるのではないかと意識する市民も多いと思います。その中で、ニアイズベターの実現は1つの解決につながる方策で、明確な政治闘争のテーマになると思います。まず、今できることとして、本庁(局)や市議は大阪市のことに責任を持つというだけではなく、区選出の市議は区の責任を持つ。そんな意識で、区でもブロックでも、責任者が明確になる常任委員会などを設置することも大切では。
【柳本】
責任者を明確にするということであれば、複数の行政区を統括する副市長の導入も一案です。事例もあります。
【北村】
環状線の内外格差のように、大都市は都市課題が地域差とリンクし、地域間対立や差別につながる怖さもあります。複数の行政区を統括する副市長であれ、選挙区制度の見直しであれ、誰がこの地域の住民代表者なのか。責任者なのか。そのような意識で都市論を考えることは大切です。
【金谷】
ひとつの案ではなく、大阪市にとっていい手段はなにかを追求していく必要があります。単なる行財政改革ではなく市民サービスをどう向上させるか、住民自治の視点からも議論が深化することを望みます。
【武】
議員になる前も今も感じていますが、地域で活動し、自治力を持った市民はたくさんいます。でも、その多様な活動主体が行政施策となかなかつながらない。地域の課題解決のためには、ここが協働できればもっとまちづくりが進みます。そんな思いでこれからも議員を手段としてソーシャルワーカーの役割を果たしていきます。
■まとめ(西脇)
住民投票の結果は、半数の市民が今の行政区にはこだわらないという意思でもありました。今日は強区長、大区役所への合区、8ブロック内部に拠点総合区のモデル設置など、突っ込んだ提案も出ました。課題解決のための制度として「総合区」設計ができるか、また議論する機会をつくりたい。

この記事へのコメント