第22回自治フォーラムおおさか(第16回自治体政策研究会共催) 住まいから考えるシングルマザー支援 ~コロナ禍の今 大阪でできること~

第22回自治フォーラムおおさか(第16回自治体政策研究会共催)
住まいから考えるシングルマザー支援 ~コロナ禍の今 大阪でできること~

◆報告と話題提供~

1,「平時とコロナ禍の母子世帯の居住貧困の関係・求められる居住支援は何か」
葛西 リサ 氏(追手門学院大学地域創造学部准教授、学術博士)


2,「大阪市のひとり親家庭の現状・ひとり親の住宅施策の現状・大阪市への提案」
武 直樹 氏 (いくの市民活動支援センター代表)


◆意見交換・質疑応答

 みなさん、お久しぶりです。
 今回の自治フォーラムおおさかは、追寺門学院大学准教授葛西リサ先生を再びお招きし、シングルマザーの居住支援について大阪市・大阪府域で出来ることはなにかを考えました。


【開会】
 まずは西脇先生から、『日本では住宅政策は政治の争点にもならず、住居は個人で解決するものであるという概念が強い。コロナ禍が突きつけた課題は多々あるが、なかでもひとり親家庭へのしわ寄せは深刻だった。
 『本フォーラムでは、シングルマザーの実態、特に「居住」の課題を明らかにしていきたい。シングルマザー支援の充実度は「自治体ガチャ」と比喩されるほど地域によって異なる。シングルマザーの居住貧困を研究されてきた葛西先生、ひとり親の当事者でもあった武直樹議員、お二人から話題提供をうけ、住居問題を個人の責任で片付けていいのか、参加者のみなさんとともに議論を掘り下げたい』との開会挨拶からスタートしました。

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司会はおおさかコモンズの市田さん、奥田さんです。

それでは、以下レポートです。
                              文責:けさまる ともこ

アーカイブ動画視聴はこちら
https://youtu.be/4KH6Y8IawiQ

当日資料はこちらから
https://drive.google.com/drive/folders/1vXAVLX7pVR6_M-MF3XmLx8vMeRQCsmnW



■話題提供①
~住まいから考えるシングルマザー支援~
葛西リサ氏 追手門学院大学地域創造学部准教授。学術博士。


 前半は「平時とコロナ禍の母子世帯の居住貧困の関係」、後半は事例も交えながら「求められる居住支援とはなにか」についてお話しします。まず、平時とコロナ禍について少し整理します。シングルマザーの置かれている厳しい実態はコロナ禍によって露呈されただけで、決して平時に問題がなかったわけではありません。
 なぜシングルマザーは住宅に困るのでしょうか?日本は持ち家率が6割を超え、わずか3.6%の公営住宅という狭き門は高齢者と競合します。そしてURも決して安くありません。持ち家がマジョリティーであり、「住宅は自助努力で獲得するもの」という考えが強すぎます。居住が普遍的な権利として、保障されるものだという意識が定着することがなく、住宅困窮者側も同様で、声をあげることはほとんどありませんでした。
20年間シングルマザーの居住問題に取り組み、可視化することからはじめました。民間賃貸業も商売であるため、家賃を払えるか否かで、入居者を判断するのは当然。実態を知るほどに、公的な制度が未整備な状況であり、不動産業者を一方的に「敵」とみなすのは違うと考えるようになりました。ただ、住宅の供給という観点から考えると、空き家が増加したことで不動産業者の意識も変わり、シングルマザーを顧客層として捉え始めました。
 例えば、単なる住宅の提供にとどまらず、子育てや就労といった要素を含めたサービスを提供するなどドラスティックに賃貸市場が変わりつつあります。空き家が増えている今、居住支援を拡充するチャンスがやってきています。
しかし、シングルマザーの収入は低く、安い家賃=好ましくない住環境を選ばざるをえない実態は依然としてあります。同じひとり親でも、シングルファザーは持ち家率が比較的高くなっています。ローンで苦しんでいるといった現実もあるでしょうが、今回はシングルマザーの居住問題に焦点を絞ります。
 シングルマザー世帯の公営住宅入居率は13%です。一般的なシングルマザーの所得がほぼ公営住宅階層であることを鑑みると、「希望すれば公営住宅に入居できる」環境ではありません。多くのシングルマザーは民間賃貸を選ばざるをえず、ワンルームで子どもが風邪をひいても隔離できない、勉強するスペースがないといった居住の実態などを見てきました。
最低居住面積水準は日本にもありますが、イギリスのように水準を下回ると、住み替えを支援する施策は無く、大阪市の約42%のシングルマザーがこの水準を満たしていません。水準は広さについての指標で、生活や仕事、子育ての利便性も考慮すると、広さや設備を犠牲にしていると思われます。そして、収入に占める家賃が35%と住居費負担率も高くなっています。
平時でもギリギリの状況の中で、更にコロナ禍がシングルマザー世帯を襲いました。最も危惧したのは家賃が払えなくなることです。公営住宅は特別な事情があれば家賃滞納についての対応もありますが、民間賃貸住宅はすぐに家を追い出されることもあります。コロナ禍での調査は母親に負担をかけないか躊躇したところもありましたが、2020年4月にアンケート調査を実施しました。2週間ほどの調査だったが回答はすぐに集まり、そこには切実な声が溢れていました。
 半数の方は収入が減っていましたが、福祉従事者などは収入が増えた方もおられました。しかし、収入の増減に関係なく、「支出が増えた」という回答が多く、在宅時間増に伴う水光熱費の増加、マスクといった衛生用品などイレギュラーな支出が増えた生活を苦しめている実態がありました。また、子どものアルバイトが減り、マルチインカム(ひとりの人が複数の収入源を持つこと)で踏ん張っていたが、限界という回答もありました。収入の35%を住居費が占めているような状況では、少しでも収支バランスが崩れると、すぐに生活は破綻します。「家賃が苦しい」という回答は56.8%でしたが、住居への抜本的なサポートはありませんでした。自由記述では、「ステイホームと言われても、個室がないのにリモートワークなどとても出来ない」といった声や「死ぬ」というキーワードすら散見されました。
その後も引き続き、シングルマザー調査プロジェクトとして大規模なパネル調査を2021年7月まで実施しました(資料参照)。支出でいちばんキツかったのは何かという設問の回答ナンバーワンは家賃でした。波のあるシングルマザーの収入では、手取りから家賃を支払うと手元に残る金額はという設問に対して、「5万円」「ほとんど残らない」「赤字」という回答が寄せられました。一時的に家賃を応援する制度「住宅確保給付金」もありましたが、半数は知りません。もし、知っていたとしても利用手続きは難解で、制度を使うところまでサポートすることが必要です。
 こうした実態を知ると、「住宅を失うことがあってはならない」という視点から制度設計を始めるべきだと思います。現状は失ったらサポートの対象になりますが、「失いそう」にはサポートがありません。ここを根本的に変えることが必要です。また、住まいというハコだけではなく、「安心できる」子育てや就労環境といった「地域が重要なインフラ」であるという認識がもっとされるべきです。居住を普遍的な権利として位置付け、公営住宅の提供だけでなく、民間賃貸住宅への家賃補助など、制度の拡充が求められているのだと思います。
シェアハウスの事例も増えていますが、コロナ禍で人が集まってはいけない風潮が強まり、この形態が衰退するかもしれないと危惧していましたが、シェアハウス紹介サイトへのアクセス件数が増えるといった現象がおこりました。これは、住居を失いそうになりシェアハウスなら何とかなるかも、そうした切迫した状況がそうさせたと考えられます。ただ、業者のみなさんも営利なので「収入なし」では入居させること難しいです。だからこそ、住まいの提供だけでなく、就労面のサポートも用意するなど、母子×居住支援の事例はいろいろ登場しています。各地でこんな動きが広がれば嬉しいです。
 最後に、プレシングルマザーについて。みなさんは離婚後に住居を探すと思われるかもしれませんが、別居してから離婚するケースはたくさんあります。住まいのあてがなく、離婚したいが離婚できない“プレ”シングルマザーも多く存在します。“プレ”シングルマザーを支援する制度はほとんどなく、DVを我慢しながらの同居や別居しようとしても、住まいが見つからないといった厳しい状況に置かれていることは知っておいてください。

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➀葛西氏 資料1_page-0021.jpg

【シングルマザー調査プロジェクト報告書】
https://drive.google.com/file/d/1Df_j5NoKFyc5wbFqNd6uq1RNu7J3IHQb/view?usp=sharing


■話題提供②
大阪市のひとり親家庭の現状・ひとり親の住宅施策の現状・大阪市への提案
武 直樹 氏 いくの市民活動支援センター代表


 現在は市会議員ですが、元社会福祉協議会職員として、いまもソーシャルワーカーとして地域で活動しています。そもそも、議員になった動機も、現場で制度・施策の矛盾点と向き合い、四苦八苦しても改善されない、声が届かない、そんな経験があったからです。
行政を動かすには、「課題の可視化」はとても重要です。しかし、母子家庭への居住支援に関しては「課題」は明確になっているのに、なかなか進みません。8割のひとり親が働き、ダブルワークをしている方もいるなかで、母子家庭の平均就労収入は約229万円、ひとり親の世帯の子どもの貧困率は48.1%と厳しい状況に置かれています。
 住宅施策として期待される公営住宅は、市内に約11万戸ありますが、毎年3,000戸の募集のうち、母子向けはわずか225戸。しかも、区によってはゼロということもあります。公営住宅に入れるのであれば、現住地を離れるのもやむなしというのはあまりに乱暴な考えです。生活と地域は密接につながっており、そのあたりも考慮することが必要です。
 また、セーフティネット住宅制度はできましたが、大阪市には家賃補助がありません。母子生活支援施設は緊急性が低ければ入居できない場合もあり、制度として整っているとは到底いえません。
 何度も居住支援の必要性を議会で取り上げても、制度の拡充にはつながっていません。生野区は空き家が24区でいちばん多いこともあり、空き家に家賃補助をつけて活用できないかと提案しても、「大阪市の住宅施策は公営住宅で」との回答。「では、7,000戸ある公営住宅の政策空き家をひとり親支援施策として活用できないか」と子ども青少年局になげても「住宅は都市整備局で」と返され、「都市整備局にひとり親の住宅施策を検討して欲しい」と訴えても「ひとり親支援施策は子ども青少年局で」と、まさにたらい回し。
 ただ、都市整備局からは、子ども青少年局(ひとり親)、市民局(福祉)など、局が整理すれば、市営住宅の目的外使用はOKと確認できています。ぜひ、研究者や市民の実践で突破していきたいです。
新しい制度を作るときには、現場や専門職の声を束ねることも重要です。大阪府内には居住支援法人が99法人、うち市内は84法人ですが、市内にはそれを束ねる協議会はありません。実際に「協議会をつくりたい」という相談を受けても、区役所には「空き家」担当しかなく、どこそこに行け・・・と、ここでもたらい回し。ただ、どの規模の協議会をつくるかは本当に難しい問題です。市全体をカバーする協議会では現場から遠すぎる。各区につくろうとすれば、すでにある様々な協議会の屋上屋になることも想定され、抵抗があるのも事実です。とはいえ、市役所には住宅と福祉をつなぐ大阪市住宅セーフティネット連絡会議が設置されているので、まずはそこの活用を模索しています。
 空き家利活用改修補助制度は、生野区で不動産業者・設計士・支援者・区役所職員などいろいろな立場の人が議論を重ね、カタチになった制度で、他の区でも活用した事例がうまれています。こうした実践と制度の好循環が続くと、次の制度化を目指す動きにもつながり、地域の課題を突破できると思います。みなさんの声を大切に、これからもラウンドテーブルにしていきます。

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~質疑応答~
○葛西先生が居住支援に取り組んだきっかけは?
【葛西】
 海外の論文集には「女性の住宅問題」を取り扱ったものがありましたが、20年前の日本は「子どもの貧困」分野もなければ、居住支援に取り組んでいる研究も皆無でした。でも、現場にいけば、住まいの課題は山積。でも、支援はない。そんな現状に愕然としました。その時に出会ったみなさんから「あんたが偉くなって、私たちのような辛い思いをする人を出さないようにして欲しい」と言われたことが、今の原動力です。

〇目的外利用を推進するヒントは?
 1つは、管理に関してのコストメリットがあることです。空き家であっても、管理コストは必要です。空き家にするぐらいなら、使う方がストックを有効に使っていることになります。政策空き家は全国で20万戸あり、目的外使用をするには、国交省とやり取りする必要があります。すべてが使える部屋ばかりではありませんが、利用にかなう空き家も相当数あるはずです。尼崎市では400戸の政策空き家のうち100戸を活用し始めています。スキームは、コープ神戸が窓口となり、若年女性支援に取り組む支援団体などとネットワークをつくり、建て替え予定の市営住宅を各団体が利用しています。賃貸借契約は市と支援団体、支援団体と入居者が結んでいます。
 こうした取り組みは、住居を必要とする人が助かるだけでなく、「人が入ると空気が動く」コミュニティの活性にも繋がります。大阪市も7,000戸ある公営住宅ストックの活用を検討する時期が来ていると思います。

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○空き屋が多いことは、不動産業者もわかっている。行政のサポートが少しあれば動くはず。大阪市では何故できないのですか?

【金谷元東淀川区長】
 縦割りの弊害がある。尼崎市よりも大きな組織である大阪市はその傾向がより強い。大阪市の公営住宅率は他の自治体に比べて突出して多く、また区ごとに偏在しており、オール大阪で方針を決めにくいことも事実。行政だけでなく、子どもサポートネットの活用や、民間の借り上げ住宅など民の知恵と公の裏判(信頼)とセットにすることが必要では。

【葛西】
 公営住宅の多い少ないはあるかもしれないが、横浜市では民間賃貸住宅を活用した家賃補助制度があります。歴史的な経過があるのかもしれないが、民間支援団体の力が強いという印象もあり、制度化につなぐには、市民が行政に働きかけることは大切だと思います。

【西脇】
 「ひとり親の公営住宅は年間225戸募集しています。」と言われれば、何もしていないわけではないという印象を受けます。しかし、その裏には毎年約300人が抽選にハズレている現実があります。このあたりは丁寧に現状を可視化する必要があります。外れた人はどこに行けばいいのでしょう。また、募集している公営住宅の立地条件も考慮すべきです。市内の中心部と郊外の公営住宅では、応募倍率が偏在するのも当たり前です。

○郊外であれば、リモートワークなどその地域性にマッチングした「住宅」の在り方を模索することも1つの手段では?

【葛西先生】
 住むと働くことをセットにした住宅があってもいいと思います。それはずっと提唱していますが、簡単ではありません。住宅支援は普遍的に必要なものであり、当事者の声をひろっていきますが、武議員には大阪市の現状を少しでも変えてもらえるように、引き続き期待していきます。


【まとめ】
 最後に西脇先生は、『住宅は「住む」ということだけでなく、そこに居場所機能や生活に必要な要素を引き込むといったヒントがいただけたと思う。現場の声を政治に反映させるためにも、このコロナ禍を住宅政策が変わるチャンスにしたい』とまとめました。

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